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『EVERYDAY NOTES』

●2008年12月

●2008年11月

『OPENNING NOTE』

 
 

EVERYDAY NOTES - archive - 2009 january

1月31日(土)
 午前中、外は雨、コンペのスケッチを整理して描く。午後少し雲が切れて空が見えたので自転車で先輩建築家の事務所へ。コンペの打ち合わせ。新しいアイディアも出て、提出案の整理をする。まだ流動的だか共同作業でうまくいい方向に導きたい。

 夕方、NIDショップの床の塗装をチェック。いい感じにモルタルに表情がつく。それから『パリ』(監督:セドリック・クラピッシュ、2009)を観る。すごく沢山の登場人物のドラマを丹念に描いている綺麗な映画。今更ながらパリの美しさに感心する。また画面に鏡が頻繁に登場し、人物を多面的に見せようとしていたのは正に人は他者を通してのみ自分を認識できるためであり、そういう意味ではパリという都市そのものがそこに住む雑多な人々のうつし鏡に他ならないと思った。つまりパリの映画だけど、パリじゃなくてもいい。結局都市はそこに住む人のドラマを通してのみ捉えられるのかもしれない。

 夜、コンペのスケッチを展開する。もうカレンダーをめくる日が来た。二月も突っ走ろう。

1月30日(金)
 午前中、材木をNIDショップに搬入し、家具の製作作業。職人さんと一緒に一つずつ作業を進めて完成させる。精度に対するこだわりをもってやり遂げることができた。やはり僕はこうして実物を触るのが好きであることを自覚する。これは、小学校のときから図工の時間のときに出てくるあのわくわく感の延長なんだと思う。さあ、いよいよ週末の床の最終塗装でNIDショップの工事が終わる。5日の木曜には、オープニングなので多くの人にお目にかかりたい。楽しみだ。

 夕方、先輩建築家のところでコンペの打ち合わせ。ブレーンストーミングから少しずつ具体性を検討しながら方向性を決めていく。短時間なので集中してスケッチしなければ。事務所に戻ると石山研究室より『絶版書房・アニミズム周辺紀行1』が届く。早速前書きを読むも読書するというより思考することを誘発する文章なのであえて今は読まないで少しゆとりのある時に大切に読むことにして、コンペのスケッチに取り掛かる。

 夜、レンコンとひき肉を炒めて食す。正月、実家で食べてすごく美味しかったので母につくり方を教えてもらい早速つくってみた。しっかり歯ごたえもあり、美味。疲れたので読書して早めに寝る。

1月29日(木)
 午前中、経理関係の書類を作成する。それから秋葉原にNIDショップのためのレバー・スイッチを買いに行く。思い通りのスイッチが無線屋さんでみつかる。しかし、久しぶりの秋葉原で感じるのは森川嘉一郎さんの言うと通りそこに来る人たちの趣味がそのまま秋葉原という場所、ないし都市の輪郭を形成しているということ。

 午後、青色申告会にて決算書や申告書についてのミニレクチャを受ける。夕方、先輩建築家の事務所にて新しいコンペの打ち合わせ。また一緒に仕事をさせてもらえることになったので頑張りたい。そのまま自転車で乃木坂へ。白井版画工房にてアクアチント作業。集中して作業を進め、試し刷りまでいった。『(仮)夜の都市風景シリーズ』の第二作目がほぼ完成。十二枚くらいのシリーズにしたら何か迫力があるやもしれぬ。気を抜かずにやってみよう。

 夜は、大きい机を支配しているスペイン・ドローイングを片して、コンペのアイディア・スケッチをする。BGMは、ジョヴァンニ・ミラバッシ・トリオ。頭をできるだけ自由にして発想しようとするも、ペンがなかなか進まない。

1月28日(水)
 午前中、メールや雑務。午後、スペイン・ドローイングを描く。今日の収穫は、ガウディーのサグラダ・ファミリア。友人の依頼でこうしてスペインのスケッチを毎日一本の水平線上に連結しているのだが、学生時代に描いた欧州バージョンとは違ってスペインらしき趣が画面全体を覆っている気がしてならない。

 夕方、初めて東工大へ。『アーキテクチャと思考の場所』と題したシンポジウム。東浩紀司会で、浅田彰、磯崎新、宮台真司といった豪華なメンバーに若手の宇野常寛と濱野智史が議論するという構図だったが、「アーキテクチャ」という言葉に対する個々の認識、テーマや歴史感覚の違いから話が四方八方に展開しかみ合わない感は否めなかった。しかし、現代日本の思想界の一つの水準が見えて大いに勉強になり、刺激になった。

 夜、気分も乗っていたのでスペイン・ドローイングを続けて描く。数日前に変えた事務所のレイアウトのためか、大きな机に向かうと作業が進む。アルハンブラ宮殿を丹念に描ききる。深夜、多木さんの本を読み進める。

1月27日(火)
 午前中、『都市の政治学』(多木浩二、岩波新書、1994)を再読。学生時代に読んで印象深かったのを思い出し、都市について考えるためにじっくりと読み直す。

 午後、コミッションされたスペイン・ドローイングを集中して描く。順調にケント紙の空白が埋められていく。時間を忘れて作業。夕方、NIDショップの床の修復工事の確認へ。金曜日に家具の製作をしたらいよいよすべてが完成する。楽しみだ。夜、『エレジー』(監督:イサベル・コイシェ、2009)を観る。年齢差を超えた恋愛物語。しかし、女性の監督ということからか何とも登場するすべての男性がナイーブで女性にだらしない描かれ方をしていたのが気になった。それにしても主演のペネロペ・クルスはどこからどう映っても美しいが、やはり英語よりスペイン語で演じているときの方が自然体で魅力的だな。

 深夜、多木さんを読み進める。すごく考えさせられる好著で、いつもより線を沢山ひく。

1月26日(月)
 午前中、またしても部屋の整理から一日をスタート。天気もよくて、洗濯もする。午後、スペイン・ドローイングを綺麗な机の上でゆっくりと描き進める。キース・ジャレットの新盤『イエスタデー』を聴きながら。

 夜、先週お手伝いしたコンペを先輩建築家たちと打ち上げ。美味しい鍋をつつきながらの楽しい集まりだった。

 深夜、『自然な建築』(隈研吾、岩波新書、2009)を読み終わる。はじまりからモダニズム建築をコンクリート批判からはじまって驚くも、隈さんの素材に対するこだわりが近作を通して語られていて興味深かった。しかし、設計する論理としては何だか極端に感じるのは、きっとこの素材に対するこだわりは最初から隈さんの中にあるものではなくて、各々の仕事の現場で発見した問題点に対する個々の対応から生まれたからだろうか。まさに「負ける建築」のスタンスを徹底している。

1月25日(日)
 午前中、渋谷で買出し。しかし渋谷はいつ来ても人、人、人でどっと疲れてしまう。

 『国のない男』を(カート・ヴォネガット、NHK出版、2007)を読み終わる。ヴォネガットの遺作。氏の熟成した知性が鋭いとげをもって社会を捉えていて読んでいて感心する。印象的だったのは、ソール・スタインバーグとの会話で「どんな芸術においても、いちばん大切なのは、芸術家が自分の限界といかに戦ったかということなんだ」

 夜、両親と食事に合流するために新宿に行く。なんと、山手線の中にリュックサックを忘れ、どじってしまう。大したものが入っているわけではないが、慌てて駅に戻って上野に電話してもらう。先回りして取ってもらい、受け取りに行く。無駄な時間を過ごしてしまったが、平和なものだと変に感心する。

 深夜、『自然な建築』を読み進める。

1月24日(土)
 午前中、事務所の掃除と机のレイアウトを変更。効率よく作業ができるようにする。思いのほか時間がかかる。午後、渋谷に本棚を固定する木材買いに行く。夕方、一気に整理して事務所スペースを整える。

 『ぼくはアメリカを学んだ』(鎌田遵、岩波ジュニア新書、2007)を読み終わる。僕もアメリカ生まれなので東海岸ならではのアメリカ観や体験があるわけだが、鎌田氏のそれは全く新鮮なもので読んでいて面白かった。不思議な共同生活を通して著者の体験談が浮かび上がらせるのは、マイノリティーの物語の集合としてのアメリカである。オバマ新大統領がその若さと手腕でまさにこのような人たちをしっかりと視野に入れた国づくりをしてほしいと思った。あとがきにあるこの言葉に尽きる。「この本で紹介したかったのは、アメリカの輝きである。(中略)「辺境」や「どん底」でこそ、希望は輝くものなのかもしれない。」

 夜、父親がアメリカより出張のため一時帰国。奈良から母親も合流し食事。帰宅後も掃除をした。『自然な建築』(隈研吾、岩波新書、2009)を読み始める。何だか久しぶりの建築本。『負ける建築』(隈研吾、岩波書店、2004)の更なる展開に期待したい。

1月23日(金)
 午前中、NIDショップの家具のことなどを電話で対応する。スペイン・ドローイングを進める。大きい紙の余白をしっかり意識して描いていく。午後は、ペンをニードルに持ち替えて、エッチングを仕上げる。銅板に向かって最終的な線を彫って完成させる。前作とはまた違ったニュアンスになった。

 夕方、浅草橋のマキイマサルファインアーツにて、久保田弘成の個展を観に行く。久保田さんとはベルリンでお会いして以来の再会。相変わらずのエネルギーに刺激を受ける。ベルリンのトラバントに続き、今度はアイルランドでフォード車からエンジンを取り出して、その動力で車を回していた。その迫力たるは、完全にオリジナルなもの。残念ながら映像作品ですが、昨年のベルリンでの実物が回るのを観たときの感動がよみがえる。

 夜は、白井版画工房へ。早速、彫った作品の試し刷り。途中、先生のご友人で日本画家の村松秀太郎先生がいらっしゃって、みんなで焼酎を飲む。そのままの勢いで先生がわれわれ生徒をドライポイントで描いてくださった。思いがけぬモデル体験で、大いに楽しみ、何より素敵な小作品をサイン付きで頂いた。

1月22日(木)
 午前中、NIDショップの家具の見積もり調整と棚の発注。午後、銅板に向かって線を集中的に彫る。良い具合に密度が出てきた。もうすぐ完成するだろう。

 夕方、NIDショップにてモルタルの修正工事のチェック。前から気になっていた映画『チェ・28歳の革命』(監督:スティーブン・ソダーバーグ、2009)を観る。とにかく主演のベニチオ・デル・トロに観入る。革命家の人間的側面を丁寧に描いていて、すごくスムーズに感情移入できた。しかし、おすぎじゃないけど「本当にイイ男」であるとほれ込んでしまう。何が彼をそこまで一途に「革命」に駆り立てたのかが知りたいと思った。きっとパート2の『チェ・39歳別れの手紙』にはそこらへんが描かれていると期待したい。

 夜は、大学時代の友人と新年会。ハムやチーズを摘みながら、たらふくワインを頂く。ベルリンで再会した友人で、分野は違えど色々な感覚が近く、深夜まで話が盛り上がる。雨の中、自転車で帰宅。熱いシャワーを浴びて寝る。

1月21日(水)
 午前中、メールや電話、NIDショップの棚の見積もりをとる。午後、赤坂アクトシアターにて『リチャード三世』(演出:いのうえひでのり)を観る。劇団☆新感線が好きなベルリン時代の友人が招待してくれて、久しぶりの芝居を楽しんだ。しかし、舞台装置の楽しさや芝居の自由さにおいて、僕の住んでいた旧東ベルリンにあるフォルクスブューネのカストロフ(演出家)×ノイマン(舞台美術家)が好きである自分を再認識する。観終わって、明日からソウル旅行に出る友人と旅の話で盛り上がる。

 夜、机の上の書類を整理して、広くなった机の上でコミッションされたスペイン・ドローイングをスタートする。学生時代に描いたドローイング作品の新しいバージョンを描き進める。納得のいく線を丁寧に紙に落としていく。BGMは、坂本龍一。深夜、『国のない男』を読みながら寝る。

1月20日(火)
 午前中、コンペのスケッチの着色作業。先日の石山さんのレクチャーで偶然再会した大学時代の後輩、ホセ・ソリージャが来所。卒業して以来メキシコシティーに帰り独立した彼の話を聞きながらお互いの近況報告。相変わらず元気で頑張っているようで楽しみである。住む都市は違えど、同世代として切磋琢磨していきたい。

 午後、NIDショップにて床のウレタン塗装の確認と工事の仕上げについての打ち合わせ。残りは家具をつくるのみ。ギャラリーのような綺麗な空間が立ち上がった。DUNE社長のセレクトした素敵な洋服が並ぶのが今から楽しみだ。買ってから手をつけていなかった本、『ぼくはアメリカを学んだ』(鎌田遵、岩波ジュニア新書、2007)を読み始める。夜はキース・ジャレットの『ケルンコンサート』を聴きながら、銅版に向かって幻想都市風景を彫る。

 深夜、テレビで第44代アメリカ大統領就任式をライブで観る。オバマ新大統領は自信に満ちた素敵な顔をしていた。この大変なクライシスの時代にこそ「希望」が必要である。氷点下のワシントンに集まった聴衆の下で力強く演説していた大統領の左胸についた星条旗の小さなペンダントが時折星型に光を反射していた。その小さな光の美しさに何だか僕は勝手に新しいアメリカに期待を寄せる気持ちになった。歴史的瞬間だった、忘れないようにしたい。

1月19日(月)
 午前中、メールや電話、雑務。午後、コンペのスケッチの打ち合わせに渋谷まで出かける。全体のバランスとパースの修正を整理して提出までの作業を話し合う。

 渋谷から赤坂に行って、SONY WORLD PHOTOGRAPHY AWARDのAcademyメンバーであり、キュレーターの太田菜穂子さんの事務所に伺う。ドローイング作品を観てもらい、作品に潜むメッセージ性や展示するときのコンセプト、作品を見せたいターゲットの検討など大いに収穫のあるアドバイスをたくさん頂いた。しっかりと機が熟したときに最高のものを準備して勝負したい。昨年末、太田さんのキュレーションしたシャネルの展覧会でお会いしたときに一緒にいつか仕事がしたいと思った直感はやはり正しかった。

 事務所に戻ってコンペのスケッチを早速進める。夜、小学校時代の幼馴染が来所。広告マンの彼と近況を語り合い、映画や仕事の話で盛り上がる。深夜もコンペのスケッチ作業に終始する。

1月18日(日)
 午前中、追加してプリントした三冊のドローイング・ブックの製本。慣れてきたので精度が上がる。表紙も全部一気にやる。午後は、友人にコミッションされたスペインの連続ドローイングの構想を練る。良い物にしたい。

 夜、スタン・ゲッツのサックスを聴きながらコンペのスケッチを進める。昨日のものから視点を修正してイメージを明確にしていく。深夜までかかり、メールで送信。『国のない男』を読みながら寝る。もう一月も残り二週間。何たる時間の早さ。

1月17日(土)
 午前中、気持ちよく晴れていたので洗濯をして御茶ノ水へ。画材屋にて昨年末に描いた大きなドローイングのために簡単なA1フレームを買う。来週、キュレーターの方に作品を観てもらうための準備。

 移動の電車で『日本人養成講座』(三島由紀夫、メタローグ、1999)を読み終る。学生時代ぶりの再読だが当時とずいぶんと読後感が違う。「広い世の中には、豊富な人生を生きた人はたくさんいる。また、その豊富な人生を生きた人の百分の一の人が、自分の人生を記録したいという欲望を持つであろう。ところが、記録そのものにも才能がいり、技術がいり、(中略)また、冒険のただ中に記録の才能を訓練することはできない。(中略)自分の人生を記録しよう、それを世にもおもしろい物語として、後世に残そうと思うときは、たいていおそいのである。」これを読みながら僕も記録したいと思う人間であることを実感する。自分の「ベルリン生活」を早く何か形にして発表したいと思っているが、この文章を読んで沢木耕太郎が旅をして二十年経ってから『深夜特急』を書いたことに妙に説得される。

 夜、ずっとコンペのスケッチを進める。深夜、それを着色してメールで送信。なんと石山さんの『世田谷日記(R208)』に一昨日の講義後に差し上げたドローイング・ブックのことが書かれていた。実に鋭い批評に何度も読み返す。学生時代の設計製図のクリティックを思い出す。石山さんの教育者としての批評眼こそが僕の大きな道標であり、「悲観の海に沈まない」ことと「切断して、次に踏み出す」ことの「現代的逆説」についてしっかりと踏ん張って頑張りたいと思う。

1月16日(金)
 午前中、大学の大先輩から連絡があり、コンペのお手伝いをすることになった。メールなどの雑務をし、早速先輩建築家の事務所にて打ち合わせ。面白そうなプロポーザルなので短期間だが頑張ってみたい。年齢が一回りも違う先輩とはベルリンの友人を通して間接的に繋がったのがそもそものきっかけ。世界は広いようで狭いと感じる瞬間だ。

 午後、NIDショップにて修正箇所のチェックと床塗装の確認。思った仕上がりにならず、塗装材を変更することにした。細かい微調整も進み、後は家具が残るばかり。夜は、追加でドローイング・ブックをもう三冊プリントアウト。ブックとしての完成度を上げるために更にデータを調整をしていたら深夜になった。不思議なのがA4のデータをA4の用紙に「フチなし印刷」してもドンぴしゃりには出力されないということが分かった。コンペのスケッチを少しして寝る。

1月15日(木)
 午前中、部屋の整理と読書。午後、ドローイング・ブックの修正作業をし、ギャラリーへ郵送する。

 夕方、東大へ。石山修武先生による鈴木博之教授退職記念連続講義「近代建築論」8回目を聞きに行く。超満員の会場で石山さんは「保存、様式、地霊、装飾」というテーマで鈴木先生の仕事を明確に分析し、最大限の賛辞をこめて「東大を出たら、先生は野に放った虎だ」と言ったのが印象に残る。イギリスのハイテクから鈴木先生の自邸まで、更にはミースのシーグラムでマンハッタンのグリットと地霊を結びつけるなど実に丹念に論が組み立てられ、本当に贅沢な時間であった。この見事な講義を聞きながら建築家として鈴木先生のような友人を持つ石山さんが心より羨ましいと思った。懇親会で石山さんや難波先生に挨拶。早速、ドローイング・ブックを石山さんにも差し上げた。

 夜は、十年来の友人でシンガーのNaomi Yoshimuraと食事。お互いの近況を話し、音楽や金魚、屋上緑化など多岐にわたって盛り上がる。歌もそうだけど、彼女の発想の自由さにはいつも勇気をもらう。CDももらった。

 すごく充実した一日だったのでテンションも上がり深夜、目黒川沿いをジョギングして寒いのに汗をかく。『国のない男』(カート・ヴォネガット、NHK出版、2007)を読みながら寝る。

1月14日(水)
 午前中、メールや雑務。午後、経理関係の書類を整理し、青色申告会の決算書についての講習会に参加。夕方、NIDショップの現場に行って職人さんと修正箇所を伝える。昨日のモルタルも乾き、いよいよ最終調整段階。マラソンで言う40キロ付近だね。もうゴールは間近。気を抜かずに頑張らねば。

 夜は、大学時代の友人らと鍋を食してワイワイ新年会。みんなの職業がバラバラなだけに色々と話が盛り上がり、楽しい集まりであった。深夜は、ゆっくり『日本人養成講座』を読み進める。ここ数日真ん丸かった月が欠けて風情が出てきた。スタン・ゲッツのサックスが妙に聴きたくなった。

1月13日(火)
 午前中、NIDショップの現場にてエントランスのモルタル工事。綺麗にモルタルを塗って金ゴテで抑えていた。コーナーも精度良くラインが出て満足。昼、近くにある陶芸倶楽部にて昨年末に体験コーナーで作らせてもらった茶碗を受け取りに行く。電動ロクロのため土が水をたくさん含んでいたため思ったより縮んでしまったが、とてもかわいらしい茶碗が焼けていた。帰宅後、早速自分の茶碗で大盛りごはんを食す。

 午後、ドローイング・ブックの製本をする。第一段階としての三冊が完成。そのあと経理関係の書類を整理する。夜は、高校時代の友人と食事。立派に弁護士になった彼と六年ぶりの再会か。ああでもない、こうでもないとお互いの将来に対するヴィジョンを交換する。しかし、不思議なほど高校時代からお互い何も変わっていないことに気がつく。

 深夜、モンクのピアノを聴きながら『日本人養成講座』(三島由紀夫、メタローグ、1999)を本棚から引っ張り出して拾い読みする。

1月12日(月)
 今日は成人の日。およそ十年前の自分を思い出しながら一日がはじまった。午後、部屋の掃除をして、気分良く銅版画に向かう。グールドによるブラームス『インターメッツィ』を聴きながら銅版に針で線を彫っていく。時間を忘れて没頭する。至福のとき。

 夜は、ドローイング・ブックの最終ページとしての「あとがき」をプリントして製本。あとは表紙のみ。この三冊で一段落か。深夜、『遥かなる航跡』をまた少し読み進める。フランス人ならではの目線が読んでいて興味深い。

1月11日(日)
 澄んだ青空が気持ちよく、鋭い冬の光がアスファルトに濃い影を落とす。午前中、ホームページ更新作業。NIDショップのオープニングページを作成。沢山の人に来てもらいたい。当日はもちろん僕もDUNE社長のコーディネートした洋服を着て参加する予定。

 午後はのんびり読書。『コールハースは語る』(レム・コールハース、筑摩書房、2008)読み終わる。インタビューということもあって色んなテーマで話を進めるも深いところでの議論とはなってない印象。しかし、コールハースの思考の広さは建築家という枠を軽く超越していてその視点にいつも驚かされる。ベルリンの壁に関して「不在が存在よりもどれほど強いものになり得るかという重要な建築的開眼の、最初のきっかけを与えてくれた」という文章に深く共感する。

 夕暮れ時に無表情な東京の風景を撮影。事務所からの眺め。

 夜、お台場まで研究室の先輩である坂口恭平さんのトークイベントに出かける。学生時代に石山さんの下で一緒に世田谷村のアルミ板を張ったりした貴重な体験を共有した数少ない先輩。今では「建築探検家」として多方面で活躍している。今日は、路上生活者である鈴木正三さんとの対談。坂口さんの著書『0円ハウス0円生活』(大和書房、2008)を読んだのでその内容を中心にトークが展開され、文字情報とは違ってリアルな話としての物語が感じられて刺激を受ける。このような建築に対する違った視点を大切にしたい。

1月10日(土)
 午前中、NIDショップのガラス工事。沢山の職人さんに3メートル以上もあるガラスを綺麗にはめ込み、2メートル以上あるミラーを建具に綺麗に貼ってもらう。壁の角をはつったりと現場調整を経てすべて納まった。これでいよいよ完成間際。後はエントランスのモルタルと塗装のみ。

 昼はトロントの仲間が家に遊びに来る。8人でささやかな新年会。中学時代からの友人たち、メンバーの半分は結婚してもこうして仲良くできるのは嬉しい限り。

 夜は、ブックを3冊仕上げて、『きみに読む物語』(監督:ニック・カサヴェテス、2004)のDVDを観る。シンプルな感動作。社会にひそむヒエラルキーを超えられるのが恋愛の力であり、普遍的なテーマをうまく脚本していた。

1月9日(金)
 午前中、ドローイング・ブックの製作を進める。プリント作業。昼、NIDショップの現場にて塗装の打ち合わせ。家具の方向性も決定する。帰宅後、ブック製作を続行。

 夜、どしゃ降りのなかドイツ文化センターへ。リミニ・プロトコルの『選挙戦・ヴァレンシュタイン』のDVD上映会とトークショーに行く。昨年、『ムネモパーク』を観て以来その独特な演劇が気になっていた。やはり面白かった。今回の作品も役者ではなく登場人物が自分を演じる、つまり本人そのものが舞台上のキャラクターとなり、シラーの戯曲を上書きし、つくられた現実性を超えていこうとしていた。終わってからベルリン時代の友人たちと食事。盛り上がる。

 深夜、ブックの製本をする。なんとなく形になってきた。修正すべきポイントも見えてきたので収穫。良いものがつくられるように頑張りたい。

1月8日(木)
 午前中、ビル・エバンスとジム・ホールの『アンダー・カレント』を聴きながらじっくり読書。ドローイング・ブックをつくるためのスケッチをする。午後、連作のドローイングをスキャンしてブック製作を進める。十八枚のドローイングを二枚一組に縮小して屏風綴じにするアイディア。

 夜、編集者の方と食事。文章を書いて発表していくことについてアドバイスを頂く。フリーランスでやっていくことの大変さを知っている方なので言葉に説得力があり、刺激をもらう。やれることを一つ、一つやっていくのみ。ぜひとも頑張りたい。

 深夜、ブックの試しプリントを何枚か出力。悪くない出来だ。これをしっかりまとめていくつかのギャラリーに送ろうか。レム・コールハースのインタビューを読みながら寝る。

1月7日(水)
 午前中、メールなどの雑務。4年ぶりに日本に帰国したので送った年賀状が少しずつ帰ってきた。やっとこ半数ほどだか、こんなものかな。昼、NIDショップの現場にて職人さんと床の塗装をはじめ、建具の納まりなどについて打ち合わせ。工程表通り進んでいて、マラソンで言うと30キロ手前といったところか。土曜日のガラス、ミラー工事が山場。気持ちよく乗り切りたい。

 夕方、事務所に戻ってフィードバック作業に家具の見積もり準備。ホームページ更新作業。池田さんの展示について短い文章を『コンフォルト』に書いたのでアップ。書店に並んでいるのでぜひ見てみてください。2月号、138ページ。夜、白井版画工房の新年会に顔を出す。二十人弱の集まり、ギャラリーで作品を展示することについての話が熱く盛り上がる。ぜひ実現してみたい。

 深夜、アルゲリッチのピアノを聴きながら『グローバル・シティー』を読み進める。

1月6日(火)
 午前中、NIDショップの家具の木材について調べもの。昼は美味しいホタテの刺身をスーパーで買って食す。午後、職人さんと電話で打ち合わせ。夕方、部屋の整理を終わらせる。やっと、事務所らしく、そして部屋らしくなった。モンクのピアノを聴きながらドローイングをする。新しい机でやるドローイングは何だか新鮮ですごく楽しい。ペンが進む。

 夜、NHK『プロフェッショナル』を見る。今日のプロは、へら絞り職人の松井三都男。職人の鏡のような人だった。鉄が生き物のように動き、それをへら一つでコントロールする精度。このような職人と仕事ができるように自分も頑張らねば。良い番組で、いつもポジティブな刺激を受ける。

 深夜、『グローバル・シティ』(サスキア・サッセン、筑摩書房、2008)を読み始める。なかなか読み応えのある本でウキウキする。

1月5日(月)
 はっきりと見ていた夢を覚えている状態で起きる。昔から吹いてみたいと思っているアルト・サックスを懐かしい友人知人を前にして演奏していた。ベースを弾く父も隣にいてジャズセッション。いつか実現してみたい夢である。

 午前中、いくつかのメールと雑務。昼に餃子を食してNIDショップの現場に行く。年末の工事をチェック。床のモルタルも完成し、いよいよ空間が立ち上がる。建具もうまく納まっていた。残すは前面開口のガラスと建具に取り付くミラー、すごく順調に進んでいて安心する。その後カフェで家具のデザインミーティング。夕方、カメラのレンズを物色する。帰宅後、事務所の整理を進めてやっと完成。

 夜、少し銅版画のためのスケッチを新しい黒い机の上でする。深夜、『遥かなる航跡』(リシャール・コラス、集英社インターナショナル、2006)を読み進める。

1月4日(日)
 午前中、ゆっくりする。午後はひたすら部屋の大掃除と整理。壁一面の本棚が完成。外は快晴だし、ぐんぐん掃除も進む。夜は、アパレル関係の仕事をしている友人らと新年会。同年代の異業種で働く人たちからはいつも刺激をもらう。さあ、頑張らねば。

 深夜、コールハースのインタビューを読んで寝る。正月もいよいよ終わり、明日から仕事。

1月3日(土)
 午前中、御節料理を食す。昼から神戸にお墓参り。西宮の熊野神社で初詣。夕方、美味しいてんぷらうどんを食して、新大阪より新幹線で帰宅。読書もほどほどに2時間半、ぐっすり寝る。

 夜は、『潜水服は蝶の夢を見る』(監督:ジュリアン・シュナーベル、2007)のDVDを観る。人生を謳歌していた雑誌編集長のお話。ノンフィクションなのでスローなペースだがとても説得力のある映像が続く感動作だった。

1月2日(金)
 午前中、弟を大阪空港まで車で送る。往復二時間半のドライブを満喫。午後はゆっくり。夕方、小学校時代の幼なじみとお茶。成人式以来の再会でもあり、救命救急士や歯医者さん、PR広告マンになっていた。みんな少年野球のチームの仲間。夜は、叔父が来て食事をする。その後、小学校の隣のクラスの同窓会に顔を出す。総勢11名、ほとんどが小学校の卒業式以来の十七年ぶり。みんな全くといっていいほど変わっていなくて、何とも和やかな気持ちになる。笑顔の絶えない懐かしきやさしい時間。

 深夜、『悩む力』(姜尚中、集英社新書、2008)読み終わる。夏目漱石とウェーバーを道しるべに悩むことの可能性について深く論じていて、自我や自由について色々と示唆に富んでいた。漱石を読み返したくなった。旅先だからか、読みやすい新書を買ってしまうので読むスピードが早いな。

2009年1月1日(木)
 新年あけましておめでとうございます。これからもますます精進していきたいと思いますので、どうぞ何卒よろしくお願いいたします。

 今年からは改行して読みやすくしてみたい。午前中、家族で御節料理を囲んで食事。午後、両親が兄家族を空港まで車で送っている間、弟と難波をぶらぶらしながら梅田まで歩く。元旦から働いている店も多いが、やはり大阪の街も今日ばかりは閑散としていた。阪急電車に乗って続いて西宮に出て両親と合流。ばかデカイ西宮ガーデンズモールを散策。スケールや雰囲気から昨年東ベルリンに完成したアレクサを思い出す。資本主義経済の風景は世界中どこも一緒か。寿司を食べて帰宅。帰りのハンドルは握らせてもらった。

 深夜、『ジャッキー・ブラウン』(監督:クエンティン・タランティーノ、1997)を観る。サミュエル・ジャクソンの演技に観入ってしまう。久しぶりに観たタランティーノ映画、その切れ味よい展開こそ彼の醍醐味。

 

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