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『EVERYDAY NOTES』

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『OPENNING NOTE』

 
 

EVERYDAY NOTES - archive - 2009 august

8月31日(月)
 午前中、台風が近づく中、コンペ作業を進める。昼から渋谷で打ち合わせ。すっかり本降りで傘を差してもびしょ濡れに。全体模型の写真撮影を済ませてプレゼンテーションを仕上げていく。夜、郵便局で発送して終了。とても集中的に進めたコンペでやりがいもあったので後は結果を待つのみ。深夜、台風の過ぎた空は何とも深い藍色をして、薄い雲がスピーディに流れていた。明日から九月。2009年も残り4ヶ月。

8月30日(日)
 午前中、台風の予感を感じる冷たい風が吹く中、衆議院議員選挙に行く。投票所は凄い混雑で並ぶことになったが、それだけ社会が切実に変化を求めている現われだろう。

 コンペプレゼンの準備を進める。いよいよ最終段階に入ったので、やりきりたい。忙しさにかまけて読み途中の本がまた山積みになってきた。本を読むスピードより、興味が引かれて本屋で購入する方が早いのでバランスを整えねば。

 夜は、渋谷で打ち合わせ。もう40キロ地点か。気を引き締めてゴールしたい。最後のブラッシュアップ作業。深夜、選挙の結果を知るも、予想通りの展開となっていた。明日で8月も終わる。

8月29日(土)
 午前中はコンペ作業と雑読。メールなどの雑務。午後は連日の模型撮影を済ませて、スケッチ作業。

 夕方、打ち合わせ前にGYREにてARCHITECT2.0展を観る。入場無料でたくさんの人にこうした建築の展示を見てもらって幅広い感想を聞いてみたいと思った。そのためには、もう少し出展者や出展作品に対する説明がないと不親切なのではないか。だからかマンガが一番ダイレクトに表現されていた面白い試みだと思った。

 渋谷にて打ち合わせ。お互いの資料をまとめて整理していき、どんどんブラッシュアップを続ける。夜は、ベルリンで知り合ってからの友人ダンサーのパフォーマンスを観に行く。コンテンポラリーダンスというフィールドで自分の作品を模索する姿にはいつもたくさんのエネルギーをもらう。体の動きで何かを表現する踊りは、いつみても美しいのみならず、人間のコミュニケーションとしての原点に言語ではなくこうした踊りがあるのではないかと考えさせられる。

8月28日(金)
 午前中は、コミッションされたドローイングに手を入れる。久しぶりに大きなドローイングなので感覚を自由にすることを意識して進めていく。気分も高揚して気がつけば、三時間が経っていた。

 昼、コンペモデルの写真撮影。エッジを効かせて色んな方向から撮っていく。すぐにパソコンでチェックして下地をつくっていく。夕方、白井版画工房に寄って新しい銅版を三枚ほど購入。ドローイングと平行して銅板画もコンスタントに製作したい。夜、コンペの打ち合わせ。一通りプレゼンテーションをレイアウト。まだまだ足りないところが一杯だが、マラソンでいう35キロ地点か。気を抜かずに進めたい。コンサルタントとして新しいメンバーにも参加してもらい、貴重な意見をもらう。

 深夜、ブレンデルのピアノを聴きながら再度ドローイングを描き進める。このペースなら意外と早く完成するかもしれない。窓から心地よい晩夏の風と空には半月が光っていた。

8月27日(木)
 午前中はコンペのプレゼン修正とスケッチ。午後は南洋堂で本を物色し、雑誌『建築と日常』を購入。模型材料も手に入れて、飯田橋のカナル・カフェへ。友人を介して考古学者のOさんを紹介していただく。自己紹介から始まって、考古学や建築の話のキャッチボールが展開。お互いに関西人ということもあって、面白く話し込んでいたら四時間が経過していた。真二つに割れた半月と小さなコウモリが飛んでいたのが印象的。考古学者と建築家には「時間」をテーマに沢山の共通点がみつかったので、一緒に何かできることを約して、近い再会を楽しみにしたい。すごく刺激的な話であった。

 夜は、連日の渋谷でコンペの打ち合わせ。作業の確認と一つ一つのブラッシュアップを続ける。いよいよプレゼンテーションの作業をはじめる目処が立ってきた。

8月26日(水)
 まだ8月だというのに残暑を飛ばして、すっかり秋めいた風が吹く。午前中、ジャック・ジョンソンを聴きながらコンペのスケッチ。昼からコミッションされたドローイングの製作に取り掛かる。また新しいことにチャレンジしてみたい。しかし、いつものことだが太陽のある時間に描く線はどこか明るさをもっている気がする。

 午後、コンペのプレゼンテーション準備を進める。夕方、六本木ヒルズに行って中国人アーティストの展覧会を観る。夜は、打ち合わせでお互いの作業を確認。深夜、いつもの時間帯になりブラッド・メルドーのピアノをBGMにドローイングを描く。少しずつエンジンがかかっていくのを実感する。

「アイ・ウェイウェイ展鑑賞メモ」

 彼の仕事に一貫しているのが自身の言葉にも表れるようにすべての作品が「社会の哲学」として導かれていることだろう。一見、何の脈略もないような多彩な作品群に潜むのは、彼が捉えた社会を考え抜いて違った形に表現することの自由さなのかもしれない。直接的にしろ、間接的にしろ、コンテンポラリーアートという西洋生まれのフィールドにどっしりとした二本足で立っている彼の核は、愛国心らしきものではないかとも感じた。家具シリーズも
面白いが、最後に展示されていた『断片』という作品が印象的だった。

8月25日(火)
 午前中、集中的にモデル作業。撮影して、一段落。続けて、コンペ作業を進める。夕方、打ち合わせで再度全体の方向性を確認してブラッシュアップを続ける。その後、浅草に就航した友人のビルの内覧会。お母様に各階を案内してもらい、新築の匂いの中これからはじまる新しい生活についていろいろと意見を交換する。

「『アクロス・ザ・ユニバース』(監督:ジュリー・テイモア、2007)鑑賞メモ」

 友人の紹介で借りて観た映画だが、ビートルズの音楽をミュージカルに仕上げて映像も音楽も美しいのだが、終始MTVを見ているようなPVの連続といった印象だった。しかし、ストーリーは、ビートルズの全盛時代に合わせてベトナム戦争反戦などを取り込んでいたり、ニューヨークでの屋上のライブなど絶妙な組み合わせで面白かった。

8月24日(月)
 午前中からコンペ作業。メールなどの雑務。午後、突然の豪雨で東京の風がまた一気に冷たくなる。ロンドンで働く一時帰国中の後輩、I君が来所。マスターを卒業して就職するまでの近況を聞く。英国も経済危機で大変みたいだが、いよいよ働き出して頑張ってもらいたい。

 夕方、コンペの打ち合わせ。プレゼンのブラッシュアップ作業。続けて夜は、恵比寿にて友人にグアテマラ旅行に行ったという友人を紹介してもらう。スウェーデン人と日本人の素敵なカップルで手作りのキッシュを頂きながら旅の写真を見せてもらいながら話を聞く。

 深夜、ベン・ハーパーを聴きながらコンペの模型に手を入れる。

8月23日(日)
 午前中はコンペ模型を進める。昼、兄家族と伯父夫妻に祖母が来て食事。みんなの関心は「プロジェクト30」のしおりで、返信されてきたものを見ながら会話が弾む。甥と姪も会う度に成長著しく、子供たちの電車への関心に再度驚かされる。

 午後、コンペの打ち合わせ。エスキスを進める。夕方、世界陸上最終日で見慣れたベルリンの風景が映っていたのでついつい女子マラソンを見る。毎年のベルリンマラソンは42.195キロを1周つくるのに対して、世陸では、ベルリンの中心部で10キロのラップを作ってそこを4周するということになっているため、当時自転車で走った道がコースとなっていて当時を懐かしむ。勝手にテンションも上がる。

 この夏は、冷房をつけたのが二、三度で、基本的に自然喚起と扇風機でやってきたが深夜吹く風はもう冷たくて残暑を飛ばして初秋といったところか。8月も残り1週間。

8月22日(土)
 午前中、キースジャレットのスタンダードを聴きながらコンペのエスキスをしていたら、太陽のある時に軽快なジャズを聴くと少年時代の日曜日を思い出すことに気づく。大音量でジャズを聴きながら父がベースを弾いていたのが家族の典型的な日曜日の午前中だったから。

 夕方、模型の材料を調達して、NIDショップに顔を出す。DUNE社長と近況を話す。あれこれと新しい展開にわくわくする話があって、一緒にまた何かをやることを約束する。ネイビーのコートを手に入れる。

 夜、打ち合わせ。コンペの終盤に差し掛かり、しっかりとアイディアを積み重ねていく。帰宅後も終始模型の制作。構造モデルの展開が面白く、深夜の世界陸上の放送も手伝って気が付いたらまた夜が明けていた。

8月21日(金)
 午前中、メールなどの雑務と読書。コンペのスケッチとコンセプトシートの作成。夕方、ドイツより一時帰国しているステージ・マネージャーとして頑張る友人と再会。ベルリンでよく語り合ったのを思い出す。次はまた一年後か。

 夕方コンペの打ち合わせ。コンセプトシートのエスキスを進める。個々の作業を確認して、白井版画工房へ。集中してアクアチント作業をしていたらあっという間に時間が過ぎた。帰り際、ひょんなことから知り合った友人のバーで一杯。彼の書いた旅本をプレゼントされる。世界遺産を一人で巡ったらしい。近く読んでみたい。

8月20日(木)
 午前中、浜松町にてプリント会社とイメージの映像化について打ち合わせ。新しいことをやるのは大変だが、できることはボーダーを越えて挑戦していきたい。

 午後、事務所にてコンペ作業。昨日の構造の打ち合わせを下にモデリング。構造の方向性は見えてきたので、進めたい。

 夕方、北山創造研究所にてエナジー・リンクに参加。スピーカーは、神谷デザインの神谷利徳さん。農学部からバーテンダーを経てデザイン会社を立ち上げて1000店舗以上を完成させたインテリア・デザイナー。とてもスピーディーにアドリブを効かせて自身の「デザイン道」を実体験に基づいて熱く語っていた。「良きバーテンは、客の反応を見てその客に見合う酒を出すバーテンではなく、同じ酒を出しているのに他の店よりもその酒をおいしいと感じてもらえるバーテンだ」という一文が印象的だった。

 夜、構造モデルを持って打ち合わせ。全体のコンセプトの整理と確認。それに構造モデルも問題なし。これから本格的に展開していく。帰宅後もスケッチと読書。長い一日だった。この時間帯に吹く風が秋の香りがして心地よく、遅寝が続いてしまう。

8月19日(水)
 午前中、読書とコンペのコンセプトスケッチ。夏はどこかへ行ってしまうのか、早くも秋を予感させる風が吹く。

 コンペのドローイングを進めて、午後から打ち合わせ。まずは、構造家との打ち合わせで色々とアイディアを出し合って、最良の構造をみつけていく。その後デザインの打ち合わせで気がついたら3時間半が経っていた。

 夜、ハーバード・ビジネス・スクールに通う友人を紹介してもらい、新しいビジネスの展開を聞く。今後一緒に何かできる予感がしてワクワクした。初対面でも何かを感じる人は、共通なヴァイブがあり、少しずつでも貴重な関係を築いていって互いに刺激できるように頑張りたい。来週には、またボストンに帰国するらしい。

8月18日(火)
 午前中、読書とスケッチ。レヴィ=ストロースの講義録と大塚英志の物語論を交互にキャッチボール。ラフスケッチを描き進めたり、コンセプトシートに赤を入れていると、やはりドローイングをする頭と論理的な思考するときの頭は全く違うところを使っているのをいつになく再確認。バランスを保ちたい。BGMは、蝉の声。蝉の鳴き声もピークを過ぎたのか少し元気がない。早くも夏が終わってしまうのか。そういえば、昨日、近所を散歩していたら一本の道に3匹の蝉が(およそ2メートル間隔)仰向けになって死んでいたのを思い出す。

8月17日(月)
 午前中、早速モデルを持って打ち合わせ。細かい部分と全体のコンセプトの確認を含めてバリエーションを絞っていく。午後、事務所に戻って作業。

 夜、イタリアから一時帰国しているダンサーの友人のトークイベント「成澤幾波子的視点からのイタリア事情」を聞きに行く。彼女とはベルリンで知り合って数えるくらいしか実際には会ったことがないのだが、ダンスと建築、分野は違うものの海外で仕事をするという点が共通項ではあるが、そのことよりも多面的に自分の可能性を広げていこうとする自由な姿勢にいつも刺激をもらう。せっかくの貴重な話なのに参加者が少なくて残念だったが、彼女の体験と僕の体験が根本的に似ていることに驚いた。また面白い方々と知り合う。いつも思うのだが、異分野の人間にはすごく磁力を感じる。

 深夜、コンペのスケッチを整理して進めていく。イシンバエワの棒高跳びは、あまりにも美しすぎる。同じ競技とは思えないほどの華麗な動き。重力に対して一本の棒であれだけの高さを超える姿、ギリシャ彫刻のごとく美しい鍛え上げられた身体が舞う姿は、圧倒的に美しい。世界新を幾度となくたたき出した彼女が「記録なし」という波乱。昨日のタイガーの逆転負けに続き、世界最高峰のスポーツの難しさを知る。気がついたらまた朝方まで作業する。

8月16日(日)
 午前中は机に積み重なっている本を雑読しながら、コンペのスケッチを進める。午後も続けてモデルのバリエーションをスタディーする。スカイプでビデオ会議。粗い画像だが、お互いの事務所での作業を確認する。

 夜、奈良の小学校時代とトロントの中学校時代の幼馴染や大学時代の友人たちと久方ぶりに会って大いに盛り上がる。深夜は、再度コンペのモデルを作り続ける。BGMは、ベルリンの世界陸上。やはり、ボルトは怪物のようなタイムで世界最速ランナーであることを証明した。100mを9秒58。しかし、映像で見るベルリンの空の色合いは、やはり東京のそれとは違っていて、テレビ越しでも十分に住んでいた頃の記憶がよみがえる。

8月15日(土)
 今日は、終戦記念日。ニュースキャスターは、「子供たちの夏休みも半分が終えましたね」と言っていたのが印象的。

 眠たい体を起こしてモデル製作を続行。スタディー模型を三つ完成させて夕方打ち合わせ。方向性を絞っていくテンポの良いミーティング。連日の打ち合わせでしっかりデザインの展開を確認してコンペを押し進める。

 深夜、ベルリンの深い青いトラックが美しいオリンピックスタジアムで行われている世界陸上を見ながら、スケッチとモデルのテストを続ける。思えば数年前、このスタジアムのピッチをゴールにしたナイキ・ハーフマラソンを走ったのを思い出す。このスタジアムは、ワールドカップ決勝でフランスのジダンが頭突きをした場所でもある。チャンネルを変えると石川遼のゴルフもやっていた。メジャー予選を早くも突破したのはさすが。今日も朝日を堪能してから寝る。

8月14日(金)
 午前中は、メールなどの雑務。イサム・ノグチの作品集をめくる。コンペ打ち合わせの準備。模型を作るもスケールアウト。再出発。打ち合わせが受身になってしまい、反省。今が大事な時期なので集中せねば。白井版画工房に行くも、アクアチント作業をしていたら初歩的な塗りの作業でミスをしてしまう。他の工程はうまくいっていただけに悔やまれる箇所ができてしまった。

 夜も事務所に戻って、太かったトレーシング・ペーパーがどんどん細くなっていく。模型のスタディーも進める。気がついたら夜が明ける。何かのカクテルかのように赤い空と青い空が層をなしていて美しい。

8月13日(木)
 朝の涼しい風に吹かれて銅板に向かう。夜の線と朝の線が違ってくることを再認識。コンペのスケッチと雑読を交互に進めて、夕方打ち合わせ。夜は、下北沢に行って友人たちと芝居を見る。その後は、蒸し暑い夏の夜に芝居談義に花が咲く。帰宅するときに斜め45度に綺麗にスライスされた半月が真っ黒な空に浮いていた。

 「『来来来来来』(作・演出本谷有希子、2009)の鑑賞メモ①」

 全く軸のぶれない本谷有希子の芝居は、実に潔く「イタイ女」が盛りだくさん。女性六人によるこのお芝居、みんながみんなそれぞれにどこか「イタイ女」であり、それを軽快なお芝居に仕立て上げているのは、彼女の絶妙な言葉遣いとバランスの良いキャラを持った役者さんのキャスティング。主演のりょうは、前作の永作同様、その美しさと存在感で中心にいるのだが、なんと言っても脇を固める松永玲子、吉本菜穂子、木野花の演技力とその空気感はさすが。しかし、あれだけの「イタイ女」を描くこの本谷有希子の人間観察力と自身の少女時代からの経験、こびない気持ちよさがあって観客をひきつけるのだろう。なぜならこの「イタイ」感じは誰もが抱えているものであり、それをしっかりと「笑い」とブレンドして芝居にするからこそ共感を得るのだろう。彼女の芝居や小説を読むといつも良質の刺激を受ける。

8月12日(水)
 メールなどのデスクワークで午前中が過ぎる。コンペのスケッチを進める。打ち合わせでも新しい展開をトレーシングペーパーに落としていく。夜も、アイディアを線にしていく作業の連続。BGMは、ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』を聴き続ける。月に不思議な雲がかかって面白い表情になっていた。

8月11日(火)
 台風の近づく関東から逃げるようにして北へ向かう。久しぶりの運転で、車窓から見える日本の風景を楽しむ。歩くスピードと自転車のスピード、車のスピードとそれぞれに感じる風景の受け止め方があり、車のそれは新鮮で楽しかった。田んぼの美しさに見惚れてしまう。

 コンペの敷地調査。頭で考えていたことを実際の場所に行ってみることで感じることは多い。スケール感や自然の条件、現況の建物の使われ方など収穫。雲の中に赤城山のシルエットを薄っすらと発見。

8月10日(月)
 コンペスケッチにドローイングの原稿をスケッチ。クライアント候補の友人夫妻と食事。高校時代、同じ寮だった彼は海と出逢い大きく成長していた。10年間のギャップを通してお互いの近況報告から湘南でのマイホーム計画で盛り上がる。夜、兄の家に行ってベビーシッター。寝起きの姪っ子は、いつになく可愛くてえらく大人しかった。

 兄より「プロジェクト30」のしおりをもらう。甥っ子がベースとなるカラーリングをして、その上を兄がステッカーを貼ってカスタマイズした感じがまた新しい味わいになっていた。このプロジェクトももうすぐ四ヶ月、そろそろ忘れかけてきた頃か返信ペースがすっぱり遅くなったが、催促はしないので気長に待って楽しみたい。累計75枚。

 「『1Q84』BOOK2(村上春樹、新潮社、2009)の読書メモ①」

 めずらしく時間がかかってしまった。高校時代に村上春樹が僕を本の世界に導いてくれたこともあって、以来すべての書籍を読んできた。小説から短編、エッセイまでを通して読み続けると多くの思考が一つの水準を規定してしまうので、新鮮な気持ちでもはや村上文学が読めなくなってしまっているのかもしれない。

 今回の作品は、村上春樹が書くべくして書いたテーマを真正面から取り組んだ大作であり、章ごとのパラレルワールドは、さすがとしかいいようがない絶妙なキャッチボールを奏でるのだが、いささか過剰に構造が積み上げられているのか、フルマラソンを走ったことがない人がトライアスロンに挑戦してしまった感じを読者に与える。どこか展開する物語の幅が限定的で深いのだが、発想の自由に余地が少なく感じた。だからまるで映像を見ているかのように(映画であるかのように)話は淡々と展開する。いつもであれば、映像化が難しい世界が立ち上がるのに対して、どこか容易な普通の世界が舞台になっているからか。

 そこで、今回思ったのが「壁と卵」の話。やはり95年以降の村上文学の転換を考えると、このイスラエルのスピーチは(英語であるということもあるが)、実にしっくりくる。ただ、今回の発売当初の売り切れブームなどからみると皮肉なことに作家「村上春樹」自身が「壁」に知らず知らずの内になってしまっているのではないかと感じてしまった。壁は社会が作るものであり、その卵であり続けたい作家を無条件で崇拝するかのようにあのようなブームが巻き起こること自体、新しい壁が出来上がってしまっているのではないだろうか。

 少し頭を整理して、また『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『ねじまき鳥のクロニクル』、『海辺のカフカ』を再読してみたい。

8月9日(日)
 昼、打ち合わせを一本終えて渋谷の本屋で無目的に物色していたら、気付くと6冊の本を手にしていた。コンペの敷地調査に空けていた日曜日だったが、車の調達上、火曜日になったので久しぶりに午後はのんびり読書をして過ごす。読みかけの本をよそに、買ったばかりの本を2,3冊読みまわす。BGMは、シダー・ウォルトンのピアノだったり、昨日カラオケで盛り上がった斉藤和義。こうしてゆっくり一日が過ぎていく。雑読でもしてこの蒸し暑い夏ボケを解消したい。

 深夜、重い腰を上げてやっとランニング。あまりに久しぶりだったので張り切って走っていたら、見事に大雨に降られてしまう。しかし、ベルリンマラソンを走った時に雪の中を走ってトレーニングしたことなどを思い出して、ずぶ濡れになりながらも、いつもの目黒川のコースを二周走りきる。少しずつまたこのジョギングを生活に取り込みたいものだ。いろんな意味でインプットとアウトプットのバランスを意識しながらやっていかなければ。

8月8日(土)
 昼からDUNE社長の結婚式。とても温かい忘れられない集いとなった。一日中仲間と祝杯を上げ続ける。たまにはこういう一日もいいのかも。ベルギーより素敵なポストカードが届く。蒸し暑い夜が続く。

8月7日(金)
 銅板画工房にて新しい小作を仕上げる。これにて9枚が出来上がる。アクアチント作業を残して、この調子で頑張りたい。しかし、夕方ゲリラ豪雨らしきに降られてまた不必要なビニール傘を買うはめに。

8月6日(木)
 気持ちの良い風が窓から入って扇風機の風と混ざり合う午前中、集中的にコンペのブレインストーミング。ランチ・ミーティングを経て更にスケッチを整理する。それから打ち合わせを二本。新しいコンペの進め方を確認し、それからは新規プロジェクトに関する相談。まだ発表できないことだが、しっかりと準備して動かしていきたい。

 夜、ニューヨークから帰国した幼馴染を中心にみんなで食事。人生の半分以上を知っているこうした仲間との時間は貴重で、変わらない何かを確認できる大切な存在。3ヶ月以上遅れてしまったが、唯一、住所が分からなかったので「プロジェクト30」のしおりを手渡す。これにて130枚すべてが僕の手元を離れていった。

8月5日(水)
 「築地市場見学断片メモ」

 四時起床。来日中の友人夫妻を築地市場に案内する。学生時代に来て以来の築地であったが、時間が止まっていたかのように変わらぬ活気と風景がそこにあった。まずは、初めてマグロの競りを見学。実に個性的なスタイルでそれぞれの競りが軽快に進んでいく。マグロの大きさに友人たちは驚いていた。その後市場内を歩き回り、先ほど競り落とされたばかりのマグロを日本刀のようなもので解体するさまを見学する。あの口の中にとろけるような寿司がこのような大きな物体として存在していることを考えると、思考は漁師さんの苦労へと想像は膨らむ。

 しかし、老朽化していることは確かだが、建て替え問題については大いに議論する必要があるだろう。あの場所にはカオスのように多くの人が入り乱れているが、その背景には確実に構造があり、それにしたがって人々は動いている。そこに時間という歴史が積み重ねられている。黄ばんだトップライトや薄汚れたRCの梁に風情を感じた。

 コンペの打ち合わせ。頭が新鮮な状態を維持してああでもない、こうでもないとアイディアを出す。

8月4日(火)
 朝からセミの大合唱。今度こそ二度目の梅雨明けか。ロンドンより帰国した英国人服飾デザイナーとのコラボレーション・プロジェクトの進み具合と今後の展開をみっちり打ち合わせ。続けて渋谷に行って、新しいコンペのキックオフ・ミーティング。夏の自転車移動はさすがに健康的な汗が出る。

8月3日(月)
 新しい週の始まり。銅板画とドローイングをコンスタントに進めて、原稿のスケッチ。絵を描くときの体力と文章を書くときの体力は全く違う。使う脳の場所も違うのだろう。

 夜、出張中で一時帰国している父親とそのアメリカ人友人夫妻と合流して、食事をしながらいろいろと会話が弾む。いつものことだが、自分のアイデンティティは思考する言語と深く関係していることに気付く。あと、予想外だったのが始めて自分のミドルネームの由来を知った。明後日、友人夫妻を築地市場に案内することを約して別れる。

8月2日(日)
 日曜日とあってなかなか会えなかった友人たちと会う。購入予定の二人に銅版画を選んでもらっていたら、一人はドローイングを描いてほしいということに。更には同席していた別の友人も急遽ご両親にプレゼントしたいということで買ってくれることになった。こうした新しい反応を大切にしたい。ちゃんと発表できるように展覧会のためにも動き出さねば。

 今、ローマで開催されている世界水泳。本当に鍛え上げられた肉体が水という異物の中をものすごく美しく進んでいく。百分の一秒を争う戦いについつい見入ってしまう。もちろん体格や才能もあるだろうが、何より孤独で膨大な練習がわずか一本のレースでタイムという数字になる、その努力の成果が結果に結びつくための緊張感が観る者に感動を生む。これぞスポーツの醍醐味。

「『それでも恋するバルセロナ』(監督:ウディ・アレン、2009)の観賞メモ」

 ふと気がついたらアメリカの巨匠アレン監督の作品を今まで観たことがなかった。ニューヨークを舞台に創り続けてきたその監督がバルセロナを舞台にテンポ良く恋愛ストーリーを展開する。『ノーカントリー』のハビエル・バルデムとペネロペの演技は絶妙でそこにアメリカ人観光客役をスカーレット・ヨハンソンが演じていて実に魅せる映画だった。『ヴィッキー/クリスティーナ/バルセロナ』という固有名詞をフラットに並べた原題に対していささか幼稚な邦題が気になるが、登場人物の恋愛観を通して沢山の価値観が提示されている。アレン監督は、そこに多様な幸福論を見せ付けているのでは。本当の幸せはきっと個人個人で見つけていかなければならないということを改めて考えさせられる。

8月1日(土)
 気がついたら新しい月のはじまり。いよいよ本格的な夏の季節。イタリアにいるグライター先生より『connected borders』ドローイング・シリーズをエッセイと一緒に責任編集している雑誌への掲載依頼が届く。もちろん快諾。こうしたメディアが新しい人たちへの窓となってくれるのを期待したい。

「『8人の女たち』(監督:フランソワ・オゾン、2002)の観賞メモ」

 豪華な女優陣を使った演劇的な映画。一つ屋根の下で家族のドタバタがサスペンスとして描かれている。個性豊かなぶつかり合いに、途中にはさまれるシャンソンが不思議なリズムを作っていて面白かった。この監督は、本当に作品ごとに全く新しい顔を見せてくれる。

 

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