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『EVERYDAY NOTES』

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『OPENNING NOTE』

 
 

EVERYDAY NOTES - archive - 2009 september

9月30日(水)
 午前中、雨模様の中、デスクワーク等。午後、『象虫ゾウムシ』(小檜山賢二、出版芸術社、2009)という面白い本をみつけて即購入。顕微鏡の中のゾウムシの写真集なのだが、実寸大では決して見ることのできないものがそこには映っていて、その多様性に只々驚かされた。形態から色合い、身体のパーツのバランスなどとにかくすごい。いろいろと触発された。続けて気になっていた本、『ゼロ年代の想像力』(宇野常寛、早川書房、2008)と『世界は分けても分からない』(福岡伸一、講談社現代新書、2009)を読み始める。

 『ココ・アヴァン・シャネル』(監督:アンヌ・フォンテーヌ、2009)を観る。少し昔に観たサガン同様、実に芯の強い女性像が描かれていて興味深かったが、時代背景や恋愛、人生観が中心で肝心の服飾デザインに対する核心があまり描かれていなかったのが少し残念だった。

 深夜、雨の中目黒川沿いをジョギング。やっとマックでもホームページが更新できるようになったので早速everyday notesを10日以上ぶりにアップする。実にありがたいことに、更新がストップしてしまっていた間のサイトのヒット数は普段と変わっていないので、こういうことがないようにしっかりPCとマックの両体制を整えたい。

 さて、明日から10月。2009年も残すところ3ヶ月か。

9月29日(火)
 午前中、コンペの最終作業に手直しして、渋谷で打ち合わせ。みんなの作業をプレゼンボードに載せてブラッシュアップ作業。細かいところを入念に確認して整理していく。夕方、無事プレゼンボードが完成し、プリントアウトする。これでコンペも終わり、少しゆっくり頭の中を整理して、新しい動きにシフトしていきたい。

9月28日(月)
 午前中、メールなどの雑務。昼、イスタンブールから来ているトルコ人の友人とランチ。旅行代理店で働く彼女が日本語を勉強していたのは知っていたが、びっくりする程きれいな言葉遣いにすっかり感心する。興味があることに対する絶え間ない努力の力はやっぱり凄い。

 午後、コンペの作業を進めて、夕方渋谷で打ち合わせ。そろそろ全体像が見えてきたのでラストスパートと言ったところか。

9月27日(日)
 午前中、コンペの作業を集中的に進める。今日も何人かの友人から心配されてメールが届く。PCが壊れてマックに切り替えているが、まだDWがうまく動いてくれないので、とにかくコンペが終わるまでは復旧できないだろう。

 夕方、渋谷で打ち合わせ。さくさくと方針を確認して、残りの作業を決めていく。夜、高校時代の同じ寮の同級生が二人、それぞれの奥さんを連れて遊びにくる。結婚してすっかり大人になった友人たち近況報告を含めて大いに盛り上がる。こうした仲間に支えられている自分を認識する。

9月26日(土)
 午前中、スーツを着て虎ノ門へ。高校時代の友人の結婚式の二次会のためのショートフィルムの撮影に参加。3テイクで終わったが、なかなか楽しい経験だった。続けて、銀座に行って現場を撮影。事務所に戻ってコンペの作業を進めていく。渋谷で打ち合わせをして、夜は広尾のクライアント宅にて食事。久しぶりに会ったので近況報告を含め、おいしい料理とお酒に舌を巻く。これからもしっかりと頑張りたい。

9月25日(金)
 午前中、メールなどの雑務。Everyday noteが珍しく更新されないので、何人かの友人からメールをもらう。今まで旅行中でも基本的に1日たりとも遅れることなくアップしてきたので、残念だ。ブログでなくて、自分でサイトをつくっているのでパソコンがダウンするとこうなってしまう。

 午後、コンペの作業を進めて、読書する。クライアントに貸して頂いた自費出版した本を読み終わる。40年以上も前にアメリカに父親の仕事で留学していた時の自叙伝。時代は、違うものの驚く程共感する部分が多く、何だか懐かしい気持ちになる。このような文章をしっかり残して100部限定で友人たちにだけプレゼントするという粋な行動に感動する。

 夕方、渋谷で打ち合わせをしてからその足で白井版画工房に行く。新しい小作のアクアチント作業をするも、うまくいかなかった。思い通りにいかないからこそ楽しいのだが、また次回修正を試みたい。

9月24日(木)
 午前中、早速パソコン修理屋にノートブックを持っていく。見積もり依頼。どうも初見での反応は良くないみたいだが、とにかく見てもらう。だめなら、新しいパソコンを買わねばならない。

 午後、コンペの作業を進める。夕方、渋谷で打ち合わせ。その後もフィードバック作業を集中的にやる。

 深夜、目黒川沿いをランニング。その後、銅版画を彫り進めて無事完成する。明日の試し刷りが楽しみだ。

9月23日(水)
 午前中、尾山台村計画の屋根についていろいろとエスキス。新しいアイデアを思いついたので簡単な模型でチェック。手応えがあったので、近く徹底的にやってみたい。午後、打ち合わせを一本。その後、パソコンの買い替えを検討するために幾つかのお店を覗く。デスクトップ型は、想像以上に安い。カフェで読書とコンペのスケッチ。

 夕方、新しい案件のラフ・スケッチを作成。古いMACを周辺機器と繋げて仕事。早速、資料をメールで送信。夜、目黒川沿いをゆっくり半時間ほど走る。身体が少しずつ絞られているのを実感。断食も上手くいったので、これからは走って身体をつくりたい。

 深夜、カサンドラ・ウィルソンの美声を聴きながら、銅版を彫り進める。明日からやっと平日らしいのでパソコンを修理に出せる。果たして復旧するのか。

9月22日(火)
 午前中、コンペの打ち合わせ準備を進める。ラフ・スケッチを描いてプロポーションを確認する。曇っている日は何だか手が良く動く。

 午後、渋谷で打ち合わせ。全体のレイアウトをつくり始める。再三スケッチを重ねてアイデアを整理していく作業。続けて、明治通りを北上して高田馬場へ。久しぶりに早稲田大学も通ったけど、明治通り沿いの立ち退きが進んでいてえらく道幅が広くなっていて不思議な風景が広がっていた。先輩のHPの打ち合わせに参加。色々と意見を交換して新しいアイデアも浮かぶ。

 深夜、グールドのベートーベンを聴きながらゆっくりと銅版を彫り進める。この小作も完成間際。

9月21日(月)
 午前中、メールなどの雑務にフリーズしたパソコンを再起動しようとするも動かず困ってしまう。午後、コンペのスケッチ。夕方、新しい銅版に向かって線を彫り進める。このペースを維持していけば、まとめて発表できるかもしれぬ。

 夜、再度コンペのスケッチを進めて、読書したりして過ごす。フリーズして動かないパソコンは、カリカリと小さな音を時折鳴らしている。しかし、全くの役立たずのパソコンを急いで復旧したいのだが世の中はシルバー・ウィークというものらしく木曜まで待たねばならない。深夜、目黒川沿いをジョギング。皇居でのロング・ランの筋肉痛を走ってほぐす。

9月20日(日)
 午前中、パソコンがクラッシュ。復旧の目処が立たず苦戦PCからマックに切り替えてインターネットには無事接続できるようになった。

 午後、渋谷でコンペ打ち合わせ。とにかく顔を突き合わせてアイディアを整理していく。一人で考えていてもまとまらないところが決まっていく。方向性が決まったのでしっかり進めたい。

 夕方、『ザ・リミッツ・オブ・コントロール』(監督:ジム・ジャームッシュ、2009)を観る。好きな監督なので久しぶりに劇場に足を運んだが、とてもポエティックな作品。「孤独な男」の一人旅。キャラクター豊富な旅の友たち。同じアメリカ人のアレン監督がバルセロナを舞台に新作を撮ったけど、ジャームッシュの切り取るマドリードやセヴィリアは、スペインの空気感をスクリーン越しに伝えることに成功していた。僕も学生時代にピカソの「ゲルニカ」やタピエスの絵画が観たくてマドリードまで行ったのを思い出す。もう10年も前か。

9月19日(土)
 午前中、メールなどの雑務。昼、ドレスデンから一時帰国しているヨルク・ネニッグが来所。早稲田大学に留学していた彼と知り合ってもう10年になる。近況を含めて色々と作品を見てもらう。ベルリンのドローイング展にも来てくれたので、その後東京で描き続けている作品に興味を持ってくれて、銅版画も即座に購入してくれた。ヨルクの主催しているワークショップPAOも今年で五回目。今年はドイツから出て、ルーマニアで開催されたらしく写真なども見せてもらう。PAOブックも頂く。近く一緒に何かしようと約して別れる。

 午後、コンペのエスキスと読書。夜、皇居ランニングデビュー。二周で11キロを75分で走った。気持ちのいいロング・ラン。何より桜田門から反時計回りに走る中で見る東京の風景が新鮮で面白かった。これからも皇居を走りたいと思ったが、ここに来るまでに自転車で片道半時間かかるので、あとはスイミングさえすればトライアスロン。電車で行くことも考えてみよう。
 深夜、新しい銅版に取りかかる。最近は画面に絶対的空白をつくって来たが、そろそろまた建築郡の風景を中心に彫ってみたい。走っている時に見た景色も影響するのだろうか。

9月18日(金)
 午前中、コミッションされたドローイングを仕上げる。このドローイングは、珍しく陽がある時間帯によくペンが進んだ作品。昼過ぎ、最後の線を描き終えてサインを入れる。午後、昨日刷り上った銅板画と共に早速フレーム屋に持っていく。フレームやマットの種類をその場で打ち合わせして注文する。二週間後に完成するので買ってくれたみんなの反応が楽しみ。

 夕方、新しいプロジェクトの現場を視察。問題点が複雑なのでなかなか難しいだろうが、その場に行っていろいろ考える。夜、青山の「ときの忘れもの」ギャラリーにてジャナス・メカスの初期35mmフィルムの作品を観る。映写機でこうした映像を観るのはとても貴重な体験。何より断片化した映像の連続が特別なメッセージを伝えるのではなく、ただ映像として記録されていることに彼の存在感の強度を感じる。アメリカに亡命して25年ぶりに祖国リトアニアにいる母を訪ねる映画だが、ベトベトな家族愛ではなく、一人一人の家族友人たちとの距離感が印象的。館長の綿貫さんの絶妙な解説もあって刺激を受ける。僕の勉強不足で、綿貫さんにウォーホール映画との関係を質問したらなんと彼が撮影したらしい。

 深夜、えらく散らかった机を整理して、いくつかの案件のスケッチをして頭の中も整理する。気がつけばもう9月も折り返している。

9月17日(木)
 朝、卵の入った雑炊を作って食す。コンペの打ち合わせのためにモデルのバリエーションを増やす。昼、渋谷で打ち合わせ。新しく材料を切り貼りしてエスキス。なかなか突破口が見出せない。切り口を転換してみることに。

 午後、ワタリウム美術館にて『ルイス・バラガン』展を観る。バラガン邸の一部が抽出されて再現されていたが、遠くメキシコからオリジナルの家具や備品を持ってきているので実に濃厚な空間が立ち上がっていた。マリオ・ボッタの空間がまさにバラガンのそれとブレンドして引き込まれた。SANAAの会場構成に因るところが大きいのだろう。コルビュジェからの手紙の展示も面白かった。ワタリウムは、パスポート制なのでまた来よう。帰りにカフェで館長の和多利さんと近況を話す。この展覧会の感想などを話していたら、何と足掛け10年でこれだけの展示が実現したらしい。

 夕方、注文してもらった四枚の銅板画を白井版画工房まで取りにいく。続けて赤坂で新しい案件の打ち合わせ。実にやりがいのある仕事なので最大限協力したい。

 夜、今のりに乗っているアパレル会社H&Mの渋谷本社のオープニング・パーティーに行く。この会社の勢いを表すかのようになんとスペシャル・ゲストにBlack Eyed PeasがDJライブをしてくれた。完成したてのショップは大賑わい。一時間ほど踊って、店内を見て回る。こぞって「百年に一度の不況」と騒ぐこのご時世、こうしてぶっちぎっている会社には何か他の会社にはないものがあるのだろう。働いている何人かの友人たちはみな気持ちよい笑顔でこの宴をサポートしていたのが印象的。僕がベルリンに行く前は、この場所は大好きな本屋であったことを懐かしむ。

 深夜、いつものコースを半時間ほど走る。断食の効果もあって体が軽いのを実感。さて、やっとフルマラソンのスタートラインに立った感じ。走ることをしっかりと生活の中に習慣化したい。シャワーを浴びて、長い一日にテンションも上がり、コミッションされたドローイングを描き進める。

9月16日(水)
 三日前より5キロ弱の減量、断食終了。84時間ぶりに体に栄養を補給する。絞りたてセロリとフルーツジュース。朝から思い立って横浜へ。『海のエジプト』展を観に行く。エジプトの古代都市に思いを馳せて、海底から発掘された遺跡群を見て回る。スフィンクスやファラオの像が圧巻。2千年前に全く同じこの像の前でどのような会話が人々によって交わされたのか。想像力が膨らむ。生活品や硬貨なども展示されていて時間の強度を感じる。金属製のドアのヒンジが印象に残る。

 中華街で温かいお粥を食べて戻る。行き帰りの電車で『動的平衡』(福岡伸一、気楽舎、2009)を読み終える。文体がドライで論理的に展開するので気持ちよいリズムで読み進められた。つねに変化し続ける体の細胞についての動的平衡の話やパターン化したがる脳の不自由さなど示唆に富んだ良著。建築家として空間の内外の境界について考えることが多い中、生物学者の「消化管の内部も、子宮の内部も、実は身体にとっては外部なのである」という文章は健康的に思考を触発する。

 午後は、コンペのモデル作業。どこか突破口がほしい。試行錯誤を続けて、コミッションされたドローイングに手を入れる。色々と全体の構成も納まってきたのでそろそろバランスを確認したら、完成するかもしれない。夜も終始模型に手を加え続ける。BGMは、メルドーのピアノ。

9月15日(火)
 断食三日目。いよいよ体が空っぽであることをえらく実感する。午前中、コミッションされたドローイングのペンが進む。どんどん新しいアイデアが生まれて、次々と描いていく。きっとこの秋の曇り空とダイアナ・クロールの歌が何とも心地よい時間を作ってくれているのだろう。

 昼、コンペの模型の展開をあれこれ考える。スケッチ。何冊かの本を回し読み。またしても読み途中の本が沢山山積みに。一冊ずつ集中して読まねば。夕方、DNPのルーヴル・ミュージアム・ラボに行く。考古学者のKさんに紹介してもらい、近所なので出かけてみた。3枚の肖像画を手がかりに、歴史的背景や技法など幅広く説明してくれていてとても面白かった。予約制なので、ゆっくりと自分のペースで進むことができて、音声ガイドやタッチパネルなど工夫されていて楽しく一時間を過ごす。

 NHK『プロフェッショナル』を久しぶりに観た。漫画家・井上雄彦。『スラムダンク』は高校時代にバスケ部だったので、例外に洩れずバイブルだったが、以後、漫画を読まなくなってしまったので『バガボンド』に関しては無知。しかし、この番組を見て「井上雄彦」という人間の持つ力にすっかり引き込まれてしまった。作品は知っていたが、初めてその人物なり、製作ぶりを見て強く胸を打たれた。何かを生み出す苦しみ、つねに自分の奥底にあるものを妥協せずペンを通して紙に描いていく。彼は、番組の最後でプロフェッショナルは「向上心」を持ち続ける人と言った。31歳にして『スラムダンク』というセンセーションを完成させていたのにも仰天する。

 深夜、触発されて再度ダイアナ・クロールの歌を聴きながら、今朝のドローイングを進めていく。さて、明日の絞りたてのフルーツ・ドリンクを楽しみに寝る。84時間ぶりに水以外のもの。デトックスも終えて、そろそろ消化器官にも仕事をしてもらわねば。

9月14日(月)
 断食二日目。さすがに元気が出ない。でもびっくりするような空腹感はなく、午前中から洗濯して、ホームページのアーカイブを整理。午後、コンペの模型を制作。ボリュームとスケールを確認しながらアイデアをまとめていく。夕方、渋谷で打ち合わせ。コンペのエスキスを模型に直接新しい材料を貼り付けたりしながら進める。

 夜は、体を入念にストレッチして、ゆっくり読書。深夜、キース・ジャレットのピアノを聴きながらコミッションされたドローイングを描く。最近は、よく手が動くのでこのペースをしっかり維持したい。

 断食もあと一日。水だけ飲んでいても、舌が敏感になっているため多様な味が感じ取られる。明後日の朝、野菜のフレッシュ・ジュースを飲むのが今から楽しみ。

9月13日(日)
 断食一日目。想定内の空腹感でのんびりして過ごす。ジャック・ジョンソンを聴きながらコミッションされたドローイングを描く。夕方、近所をカメラ片手に散歩。ほのかに汗をかき、気持ちよい運動量。いつも思うのが食欲を絶つと臭覚がえらく敏感になる。

 夜、『トウキョウソナタ』(監督:黒沢清、2008)を観る。とてもリアルな問題点をそれぞれに抱えた四人家族の物語。とても滑稽に見えるのだが、決して笑い飛ばせない深い問題点をシュールな映像で見せ付けられる。ちょっとしたズレ、不協和音が積み重なると、現代日本はこのようなソナタしか奏でられないのだろうか。そんなはずはないと言いたい。

 一日中、水だけをたっぷりと飲んだ。あと二日間。

9月12日(土)
 午前中、コンペの打ち合わせの準備を終えて渋谷へ。いろいろとエスキスを展開して次のステップに進む。午後、ゆっくり本屋で隅から隅まで物色。二冊購入。帰宅後、コミッションされたドローイングを描き進める。面白い構図になってきたので、一気にエンジンを上げる。BGMは、ベン・ハーパー。

 夕方、小雨の振る中マラソンのトレーニングを始めてから最初のロングラン。いつもの倍を走って汗をかく。やっと一時間コンスタントに走りきることができた。来ていたシャツがびしょびしょに。さて、クールダウンを含めて明日から三日間の断食決行。

9月11日(金)
 WTC同時多発テロから8年という歳月が過ぎた。あの日、ハリウッド映画のワンシーンのごとく見慣れたニューヨークの風景が一瞬にして消えたのを鮮明に覚えている。一つの事件が決定的に社会を変えることがあり、この衝撃による原因の追究と対策を含めて正確に言語化した人はいるのだろうか。昨年、跡地に足を運んだが胸に詰まる緊迫感と圧倒的脱力感に襲われた。このおぞましい事件が二度と起こらないような平和な世界に向けて個々人ができることは小さくないと信じたい。[sketch]

 集中して彫り進めていた銅板が完成する。彫り終わる瞬間というのは、心地よい密度になると銅版の方が教えてくれる。例のごとく、針からペンに持ち替えてコミッションされたドローイングも描き進める。紙の上をスイスイとペンが踊っていく。

 午後、コンペのエスキスを進める。不自由にならないように同時にいくつかのことを考えて進めていく。言葉の頭と手を動かす感覚との間をキャッチボールしながらアイデアを探っていく。夕方、白井版画工房にて早速彫り終わったばかりの小作を試し刷り。しっかりときれいな線が出たので満足。前作のアクアチントも濃淡がうまく出たので良かった。インクの黒にも無数の表情があるので難しい。

 深夜、開幕したNFLを見てしまう。いつも思うのだが、アメフトほど体力と頭脳の巧妙なせめぎ合いで成り立っているスポーツはないのではないかと思うくらい見ていて引き込まれる。少年時代にジムの時間にQBを少しやらせてもらった以外では、ほとんどプレーしたことのないスポーツだが楽しいテレビ観戦となった。

9月10日(木)
 午前中、銅板をどんどん掘り進める。新しい風景が姿を現してきて楽しくなる。昼、ベルリン工科大学にて構造家としてドクター論文を書いている友人と一年ぶりに会う。元気そうでお互いの近況を話しながら、事務所を案内。同世代としてもきっといつか一緒に面白いプロジェクトをやりたい。

 午後、コンペのエスキスとドローイングの原稿をスケッチ。コミッションされたドローイングにも少し筆を入れる。最近は良く手が動くのでこのペースを維持したい。深夜、いつものコースを半時間ほどランニング。この時期は空気が涼しくて気持ちよく走れるので軽い筋肉痛を走って治したい。

9月9日(水)
 午前中、新しい銅板に向かって針で線を彫っていく。水平線越しの都市の風景。久しぶりの感覚をスタン・ゲッツのサックスと一緒に楽しみながら作業。硬い金属にかかる圧力が新鮮でテンションも上がる。続けてコンペの作業。少し頭を整理してスケッチ。遅めの昼は、連日のカレーに工夫して炒めたシメジをトッピングして食す。

 午後はコミッションされたドローイングを描き進める。描きながら生まれるアイデアを大切にしたい。このドローイングもそろそろ折り返しといったところか。後半戦も面白い表現を模索して進めたい。手を休めるためにも雑読。梨を剥いて食べる。

 夜、連日のラン。半時間をコンスタントに走れる身体をまずつくりたい。継続あるのみ。深夜もキース・ジャレットを聴きながら再度銅板に向かう。この時間帯がやはり一番しっくりくる。日常やっていることと時間帯の関係性はあるはずだ。同じことでも太陽光と自然光とでは部屋の雰囲気も違えば、創作にも影響する。

9月8日(火)
 清々しい風に誘われて朝からさんまを食べる。午前中、デスクワークに読書。コンペの打ち合わせ準備。エスキスを重ねるも、なかなか展開しない。アイデアを確認する前に自由に沢山出さなきゃいけない段階。青山で打ち合わせを一本、それから続けて渋谷でコンペの打ち合わせ。エスキスして、方向性をラフに決めて進めることにする。深夜、涼しい風に吹かれて目黒川沿いをゆっくりランニング。まだまだ身体が重い。さて、断食のスケジュールを調整しようか。

9月7日(月)
 午前中、メールなどの雑務とコミッションされたドローイングに線を描き込む。昼、ようやく群馬県農業技術センターのコンペの結果がインターネット上で発表されるも選ばれず。第二審査に通過した五作品の案を見ない限り審査基準なども分からないので反省や批評のしょうがないが、とにかく悔しい。でもコンペとはこういうものと割り切って次にいく。

 東京マラソンにエントリーするのを忘れたので思い立って河口湖のフルマラソンにエントリーする。2年ぶり3度目のフルマラソンになるので、3ヶ月を切っているがしっかりと走るリズムをつくらねば。タイムではなくて、ゴールという明確な目標に向かってコツコツとやることが好きなので、頑張りたい。体も絞りたいし、食生活も管理しよう。良い切り替えになるといいのだが。

 夕方、渋谷で次のコンペの打ち合わせ。なかなか集中できないが、これはこれで頑張って進めていかなければならない。夜もスケッチを少々。今日も月が風情のある光を放って空の低い位置にあった。

9月6日(日)
 午前中、デスクワークして書類を色々と整理する。昼、東京に来ている弟と一緒に兄家族と合流してランチ。兄弟三人がこうして揃うのは久しぶりだ。甥と姪もすくすく育っていて皆を笑顔にさせる。

 午後、『東京フォト2009』を観に行く。若い人を中心に会場は大盛況。写真によるこうしたフェアは初めての試みとのこと。多様な作品に目移りしてしまうが、写真について考える良いきっかけになるのではないか。作品集とプリントは全く違う質感なので複製である写真の本物を見る機会を大切にしたい。

 夜は、『東京ジャズ2009』を聴きに行く。こんな広いホールでジャズを聴くというのはなかなか新鮮だった。ブルーノートで10年前に聴いたマコイ・タイナーのピアノに感動する。サード・ステージのルー・ドナルドソンの軽快なサックスも良かった。有楽町でラーメンを食して帰宅。

9月5日(土)
 午前中、メールなどの雑務と打ち合わせの準備。昼、渋谷で新しいコンペの打ち合わせ。その後、大学時代からの親友と合流してたまプラーザへ。自邸をデザインしている彼の敷地を見に行く。やはり実際にその場所に行くと感じるものも多く、色々とアイデアが沸いてくる。これは、一つしっかりと案をまとめてみたい。

 帰りに二子多摩川でお好み焼きを食す。楽しい大阪のおばちゃんのお店。続けて六本木の俳優座へ。ベルリンからの友人のお芝居を見て、皆でわいわい盛り上がる。良いモノを観ると刺激になるし、ウィスキーも手伝ってテンションも上がる。空には大きくて綺麗な満月だったが、夜が明けても白く美しい姿が見えた。

「『犬目線/握り締めて』(作:スエヒロケイスケ)鑑賞メモ」

 どこにでもある団地のエントランスを舞台に沢山の人間模様が描かれている現代劇。登場人物は皆どこかゆがんだ闇を持っている。ストーカーやDV、性暴力といったものをテーマに愛情について考えさせられた。コスプレやガンダムオタクも登場するが、みんなが自然と愛の物語を展開する。結婚観や幸福論を刺激する舞台だったが、ディープでダークな部分を程よい「笑い」がブレンドされていて面白かった。何より俳優さんたちの個性豊かな演技力が3時間もある芝居をまったく長いと感じさせない魅力的なものにしていた。観ていてつくづく演劇というのは、現代社会の合わせ鏡なのではないかと思った。あの舞台で行われていたことは、誰の中にもある闇の部分であろうし、それを自覚して受け入れる多様な価値観をこそ求められているのではないだろうか。白と黒ではなく、グレーの中をどのように生きていくのかということ。なぜなら、舞台が団地のエントランスなのだから。

9月4日(金)
 午前中、コンペのエスキスと読書。昼、甥っこが遊びに来る。会うたびに成長していてしっかりと会話ができるようになってきた。迎えに来た兄とも久しぶりにゆっくり話す。午後、購入してもらった銅板画のフレームの準備作業。夕方、青山で打ち合わせ一本。続けて、友人と合流して東京芸大の芸祭に行くもタイムオーバー。既に終わっていて作品群は見られなかったが、恒例の自作の神輿は立派だった。その後また数人が集まっていつもの沖縄料理屋へ。オックスフォードから留学中の学生さんの流暢な日本語に驚きながら、演劇談話に盛り上がる。

9月3日(木)
 午前中、コミッションされたドローイングを更に描き進める。メールなどの雑務。午後、恵比寿で打ち合わせを一本。それから戻って、新しいコンペのエスキス。頭を整理してアイディアをとにかく一杯考える。

 気分転換に『talking to myself』(山本耀司、Carla Sozzani Editore、2002)を再読。この本は、とにかく美しい。彼の美しいモードの洋服がこれでもかというくらい素晴らしい写真に収められていていつ見ても新しい発見を与えてくれる良著。何よりその本としてのつくりにもこだわりがあり、装丁も見事。今は亡きピナ・バウシュの写真もあった。文章も無駄な言葉がなく、自身の思考を断片的に語っていて示唆に富んでいる。

 夜は、揚げ茄子の入ったカレーを作って食す。朝描いたドローイングを暗くなってからまた描き進めることで線に不思議な幅が生まれる。BGMは、無性に聴きたくなったかサンドラ・ウィルソンの美声。深夜、涼しい風に誘われて連日の目黒川沿いをランニング。やはり昨日よりは足取りが軽い。三日坊主にならないように程ほどに続けたい。スポーツの秋。

9月2日(水)
 午前中、原稿のスケッチと読書。新しい銅板にも少しばかり線を入れていく。午後、柏市まで安部良アトリエの設計で竣工した住宅を見に行く。同じ研究室の大先輩の安部さんの建築を体験するのは初めてだったが、がらんどうの空間がしきりのない状態で連続していて、事務所で見せていただいた模型よりも実際のスペースは大きく感じた。コレクターであるお施主さんのために工夫された収納が空間を繋げる役割をしていて、目線が内外に広がる空間。個々のスペースに特徴があり、これからの生活を想像すると家族が楽しくなるような家ではないか。モノが入らない状態で見ることができたのも貴重かもしれない。

 往復で電車に2時間も揺られたので読書が進む。『行動建築論』(黒川紀章、彰国社、1967)を読み終わる。40年以上も前の著作だが、メタボリズム運動にかける思いや当時の建築界の影響力がCIAMやチーム・テン、アーキグラムにあったのを再確認。フリードマンやヴァン・アイクの名が頻繁に登場する。「建築家の構想が仮説モデルとして都市設計の言葉を生み、また建築設計の言葉として定着したときには、それは社会全体のものとして受け継がれていくのだ」という文章に黒川さんが建築家としていかにスケールの大きいビジョンを追い求めていたかを知り、その野心の強さが印象に残る。あとがきに「三三歳の誕生日に」と書いてあったのにも驚いた。

 続けて『アホは神の望み』(村上和雄、サンマーク出版、2008)を読み終える。こうした自己啓発本の類は読まないのだが、友人に薦められて手に取ってみたらすごく面白かった。DNAの研究をしてきた著者が自身の経験からたどり着いた思想を分かりやすく展開。アホであることの生き方の深みや笑いの大切さ、利己的・利他的である両面性などについて語っている。

 夕方、新しいコンペの準備。夜、ビル・エヴァンスを聴きながらコミッションされたドローイングを描き進める。窓を開けていたらすっかり肌寒い風が吹いてきた。重い体を絞るために深夜、目黒川沿いをジョギングする。情けないことにすぐに息が上がってしまう。更に、ショックなことに東京マラソンのエントリーが締め切られていて落胆。去年は抽選で漏れたが、今年は登録忘れ。9倍弱の倍率らしい。みんなが走れるようにしたらいいのに。

9月1日(火)
 午前中、デスクワーク。コンペの後片付けでまた気分を新たにする。雑読したり、コミッションされたドローイングを進めたりして午後を過ごす。セミの声もいよいよ小さくなってきた。このまま秋めいていくのだろうか。梨を剥いて食べたら、すごく美味しかった。

 『物語論で読む村上春樹と宮崎駿』(大塚英志、角川oneテーマ21、2009)を読み終わる。この本には「構造しかない日本」という副題が付いているのだが、村上文学をアメリカの文学やジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』に対比して批評することでその構造的類似性をキャンベルの物語論になぞって「構造しかない」物語であると言い切る。「構造しかない」という柄谷行人の指摘から本書は始まるのだが、丹念に読み比べられていく中で日本を出て世界に評価されている村上春樹と宮崎駿を「物語メーカー」として「欠損した私」を委ねてはいけないという。村上春樹は、高校生の時に本を読み始めたきっかけであり長編、短編、エッセイとほとんどすべてを読んでいるが特に最新作『1Q84』で感じた物足りなさの理由が分かったような気がした。こうした読み方だけでは小説のもつ魅力も半減するのかもしれないが、物語論として構造的に見ていくとすごく興味深い指摘が沢山あったのでまた旅にでも出たときに村上文学を再読してみたい。

 深夜、思い立って『腑抜けども、悲しみに愛を見せろ』(作・演出:本谷有希子、2004)をDVDで観る。たった五年前なのに劇団本谷有希子の近作とはまた違った印象をもった。もちろん、芝居としての作品を映像に残す難しさもあるので作品の印象が正確ではないだろうが、この作品に関しては「イタイ女」が明確な枠の中でストーリーを組み立てているのに対して、最近の芝居はそれがもっと自由に展開し、意外性も含めて芝居の空気感を獲得しているのではないだろうか。いずれにしろ、これからも本谷有希子の芝居は観ていきたい。この作品に関しては、芝居の映像としてではなく、映像のために作られた映画も近く見てみよう。

 

 

 

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