ARCHIVE

『EVERYDAY NOTES』

●2009年10月

●2009年9月

●2009年8月

●2009年7月

●2009年6月

●2009年5月

●2009年4月

●2009年3月

●2009年2月

●2009年1月

●2008年12月

●2008年11月

『OPENNING NOTE』

 
 

EVERYDAY NOTES - archive - 2009 november

11月30日(月)
 午前中、メールなどの雑務と部屋の整理。思った程筋肉痛はなく、膝の痛みもすっかり治っていた。入念にストレッチをする。

 昼、住宅Kのエスキスを進めて、雑誌『CONDITIONS』の日本販売についての打ち合わせ。夕方、服飾デザイナーの友人とテキスタイルデザインについての打ち合わせ。土曜日のイベントのフィードバックと今後の展開を話し合う。家具などにこの生地を使用できると面白い展開になるのでやってみたい。夜は代官山の『M』にも顔を出す。

 明日から師走。もうすぐ2009年も終わろうとしているので、気持ちよく締めくくられるように頑張りたい。

11月29日(日)
 五時半起床。朝食と着替えを済ませてスタートラインへ。外は曇り、気温は二度。風も冷たくて突き刺さる寒さ。七時半、いざ河口湖マラソン。人生三度目の42.195kmの旅は、小出流のトレーニングの効果なのか自己ベストを50分以上も更新する四時間半。練習の量も大切だが質も更に大事であることを思い知らされる。途中で勝手にペースメーカーとして後ろを走らせてもらったランナーが気持ちよいペースで引っ張ってくれたので10キロ地点から40キロ地点まで一緒に走らせてもらったのも大きかった。そして過去二回と違う点は、iPODshuffle。音楽がテンションを維持してくれたのも結果に繋がったのだろう。とにかくキロ六分のペースを基本的にキープし続けられたことが嬉しい。マラソンというのは、自分しか頼ることが出来ない。だから甘えも許されないし、気力で地面を蹴り続けるのだ。野口みずき選手の「(練習で)走った距離は、裏切らない」という言葉が実に端的にこのスポーツの奥の深さを語っている。ゴールした後の豚汁は、もちろん絶品。すぐに宿に戻って温泉に入る。

 帰宅後、メールなどの雑務と部屋の整理。脚は完全に棒になってしまい、ニ年ぶりのマラソン完走に懐かしい疲労感を楽しむ。タイムも驚きの結果だったので欲が出て、今度はサブ4を目指してみたい。読書してゆっくり寝る。明日の起床後の筋肉痛が怖い。

11月28日(土)
 晴天が寝不足の目に辛い。午前中ホテル・クラスカへ。銅版画を展示して、真新しいテキスタイルを壁にかけたりして準備する。昼飯はポルチーニ茸のクリームソースパスタ大盛り。少しばかりのカーボン・チャージ。イベントがはじまり直接お客さんと反応を確かめることは少ししかできなかったが、服飾デザイナーとのコラボレーションもこうして一歩進んだので嬉しい限り。イベントの最中に帰宅し、鞄を持ち替えて新宿高速バス乗り場へ。

 河口湖駅に到着し、エントリーを済ませてゼッケンを手に入れる。先に宿に入っていた友人たちと合流し、豪華な食事を食べて、温泉に入る。倒れ込むようにして寝る。明日は、いよいよマラソンだ。大いに楽しみたい。予報では曇りなので残念ながら走りながら富士山は見えないだろう。

11月27日(金)
 午前中、メールなどの雑務。いつもよりデスクワークに追われている気がするのは何故だろう。午後、ドローイング展示の準備をする。土曜日のイギリスのイベントのためのテキスタイル準備も同時進行で進める。服飾デザイナーの友人にプリントされた生地を渡して打ち合わせ。こっちも面白くなりそうだ。

 夜、代官山にてイベントスペース&バー『M』のオープニング。A1とA3のドローイング作品を二点展示する。幻想都市風景を描いているが、モノクロとカラー、画面構成などが対照的な作品を選んだ。開始早々、懐かしい友人たちが駆けつけてくれる。ベルリン時代の友人との再会もあり、活気づいたスペースでテンション上がりっぱなしで来てくれた人たちに作品を説明する。小、中、高、大学とそれぞれの友達も来てくれて嬉しい忙しさ。午後七時を指していた時計の針も気がついたら深夜の二時を回っていた。作品に対する沢山の意見を直接聞かせてもらって、また色々と制作したくなった。音楽家やファッション関係など異分野の方々とも知り合ったのでまた新しい展開が生まれそうで楽しみ。この場をお借りして来て頂いた皆さんに心よりお礼を申し上げたい。「本当にありがとうございました」。数えてはいないけど、あまりの人数のため一人一人とはゆっくり話せなかったので、これからしっかりと個人的に連絡を取り合っていきたい。この展示は、二週間ほど続くので是非恵比寿や代官山に来たら脚を運んでもらいたい。

 自転車で帰宅して、寝ないで明日の展示の準備とマラソンのため河口湖に行く荷作りをしていたら五時になっていた。少し仮眠せねば。

11月26日(木)
 午前中、メールなどの雑務。グレープフルーツを一つ食す。午後、プリントされたテキスタイルが届く。これが洋服になったらどうなるか楽しみだ。ドローイングの展示準備も進めて、代官山の『M』に行く。現場は、家具製作やもろもろの設置、掃除などいきいきとした雰囲気。フレーミングされたドローイングを受け取り、綺麗に収まっていた。明日のオープニングには多くの人に来てもらいたい。続けて、恵比寿のNADiff a/p/a/r/tにて『CONDITIONS』の日本での展開について相談。
突然の依頼にも素早く対応してもらってありがたい。

 夜、お世話になっている白井版画工房、白井さんの還暦サプライズパーティーに参加。いつものメンバーで楽しい時間を過ごす。プレゼントの駄洒落カレンダーで盛り上がる。

11月25日(水)
 午前中、メールなどの雑務。ベルリンで一緒に働いていたポルトガル人の建築家から彼女たちが編集して立ち上げた雑誌『CONDITIONS』が届く。簡単に目を通したが面白そうなので日本でも売ってもらえるか動いてみよう。午後、服飾デザイナーとの打ち合わせ。展示をする目黒のホテル・クラスカの現場を見ながら話す。二人の名刺代わりになるような小さなポストカードをつくることに。帰宅して早速データを処理してコラボレーションのためのカードをつくる。

 夕方、目黒川沿いをゆっくり走る。九月にやった三日間の断食から始まって、思った程の練習はできなかったけど、いよいよ週末に迫った本番をどうにか走りきりたい。42.195kmの旅。それから早速印刷屋にカードのプリントを依頼し、続けて渋谷で打ち合わせ一本。電話で恵比寿に展示するドローイングのフレームの納期も間に合うとの連絡あり。金曜、土曜にドローイングとテキスタイル、連日の展示にしっかりと納めることが出来そうで一安心。また新しい展開を大いに期待したい。

11月24日(火)
 午前中、渋谷にて銅版画の打ち合わせ。午後、事務所に戻って原稿などのスケッチ。住宅Kのアイデアを少し整理する。夕方、目黒川沿いを少しランニングして夜は、友人たちと食事。

 『金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った』(安部芳裕、5次元文庫、2008)を読み終わる。銀行員として働く友人から借りて読んだが、衝撃の内容に言葉を失う。もちろんすべてが事実ということではないのだろうが、このような思惑が歴史の裏にうごめいているというのであれば、戦争/平和/政治/メディア/思想など全く恐ろしくなってしまう。圧倒的な無力感に襲われるが、何かを作り出す芸術や建築にはどう影響するのだろうか。

11月23日(月)
 午前中、メールなどの雑務。最近やった銅版画をあれこれと整理する。
午後から住宅Kのエスキス。新しいスケッチを進めていたら時間があっという間に過ぎる。原宿で打ち合わせを一本。

 夜、『5+1:ジャンクションボックス』の展示に関連したイベントで茂木健一郎(脳科学者)× 長谷川祐子(東京都現代美術館チーフキュレイター)「アートが脳と都市を活性化する」@VACANTを聞きにいく。たまたま隣に座った方が毎日ブログ『フクヘン』を拝読させてもらっているBRUTUS副編集長の鈴木さんだったので、思い切って話しかけたらベルリンのことから始まってズントーやエリアソンの話で大いに盛り上がる。イベントは、オープン・リール・アンサンブルという面白い若者たちによる音楽ライブで幕開け。昔の録音機器を使って単純な作業から同時多発的に展開して複雑な音楽をつくっていく行程が目の前で展開されていて新鮮で面白かった。続けて、対談は二人の絶妙なキャッチボールがテンポ良く展開。社会に対するアートの役割や可能性、自由さについて話しながらsleepyな都市とそうでない都市という長谷川さんの提示した対比に対して茂木さんはサイバーとフィジカルな都市のあり方という対比を語る。実に濃厚な二時間の対話で多くの宿題をもらった感じ。終始エネルギッシュで早口な茂木さんが深く印象に残る。イベント後お二人に挨拶と感想を述べに行ったら、初対面にも関わらす茂木さんにワインをごちそうになり色々と話を聞く。「自分に甘い奴が一番駄目」ということが最も印象的だった。何だか色んな人たちとざっくばらんに話し合って知り合っていく感じからベルリン時代の集いを思い出した。こういう出逢いを大切にしたい。

 深夜、目黒川沿いをいつものように半時間、無心に走る。フルマラソンまであと六日。頑張ろう。

11月22日(日)
 朝から高校時代の友人の結婚式。教会での式を経て、豪華な披露宴、素敵な二次会と実に楽しい一日となった。我々が作ったショートフィルムも無事放送されて会場が湧いた。しかし、高校時代の友人たちとの懐かしい再会でさながら同窓会のような状態になり、ほぼ半数が結婚して父親になっていることに驚く。みんな新しい価値観に向かってそれぞれの人生を生きていることを実感した。また、このとてもおめでたい日が「イイ夫婦」の日であることを帰宅する途中に読んだ新聞で知る。

11月21日(土)
 朝から気になっていた映画『沈まぬ太陽』(監督:若松節朗、2009)を観に行く。3時間22分の大作。大企業に働く二人のサラリーマンを中心に欲望の質の違いがこうも多くの人を巻き込み、それぞれに違った結果を人生に用意する。ある決断を迫られる企業が万人に幸福を生み出すことはできないのであれば、やはり職種に対して誠実であり「まじめ」であり続けることを信じたい。次から次へと贅沢なキャスティングにも大作としての意気込みを感じる。

 午後は原宿で展示を一つ観て、陶芸倶楽部へ。昨年も見せて頂いたが、今年も実に多種多様な陶芸作品が立派に展示されていた。素人さんならではの自由さが作品に対する執念となって現れていて観ていて面白かった。

 夕方は、事務所で銅版画やドローイングを整理。夜はロングラン。二時間、たっぷり目黒川沿いを走る。ラップ12分のペースをずっと維持して10周。やっとそれほど疲れないでハーフマラソンを走りきった。ベルリンでウンター・デン・リンデンをザウ゛ィニー・プラッツまで走ったのを思い出す。

 深夜、ゆっくりストレッチして、読書しながら寝る。

11月20日(金)
 午前中、銅版画に取り組む。昨晩の線とは違った感じで針が進むので集中して進める。午後、メールなどの雑務とコンペのスケッチ。それから再度銅版に向かって彫り、一気に完成。着色刷りを意識したからか、今までとは違った表情の線が描けた。

 夕方、六本木で打ち合わせを一本済ませて、白井版画工房へ。早速、描き上がった銅板を試し刷り。そして前回同様、色の組み合わせで刷ることで銅版画の幅を展開する。今日はレッドをベースにイエロー、グレー、ブルーを重ねて試作。また違った空気感を着色された幻想都市風景は醸し出すので続けてみたい

 夜、目黒川沿いを半時間ほどランニング。信号が青になったので、いつものコースを直進して五反田駅まで走って、坂を上って帰ってきた。さあ、明日のロングランでいよいよ本番まで残り一週間。

 深夜、『深夜特急1』(沢木耕太郎、新潮文庫、1986)を読み終わる。何故か今まで読む機会がなく、クライアントさんから貸して頂いた本。そこら辺の旅行記を軽く越えるのは、その描写のディテールの深さにあるのだろう。綿密な旅の記録術もあるだろうが、実に旅から帰ってきて15年近くも経て書いたものとういうのに驚く。しかし、15年経ったからこそ書けたという側面もあるのではないだろうか。世界的指揮者、小沢征爾の紀行文を思い出す。

11月19日(木)
 午前中、メールなどの雑務。東京もかなり冷え込んできた。午後から新しい銅版に向かってカリカリ線を彫る。住宅Kのエスキスも進める。最近は、よく動き回っていたので一日中よく仕事ができた。

 『職業としての学問』(マックス・ウェーバー、プレジデント社、2009)を一気に読み終える。まさに現代においてウェーバーが何を意味するかを三浦展の訳の読み易さで伝えられている良著。タイトルの通り、アカデミックな分野での仕事と社会での実践について学問の果たす役割について。いかなる分野でも共通する普遍的なテーマに真っ向から挑んだ講演会の現代訳。たくさんの興味深い文章に出逢ったのでしっかりと自分の中で沈殿させたい。良い読書は、次の読書へと繋がっていく。姜尚中との対談も本文の理解を深めてくれた。

 夜、また小出流のトレーイングで「脚作り」を意識して目黒川沿い走る。水たまりを避けるようにして、寒くなった東京を45分ほど。深夜、銅版に向かって線を彫り進めていく。いつものように針と金属の冷たい関係をゆっくり楽しむようにして幻想都市風景を描いていく。BGMは、今日もキース・ジャレット。

11月18日(水)
 朝から印刷屋にて大型スキャン。ドローイングをデータ化し、そのままいつものフレーム屋に行って打ち合わせ。展示用の額を相談して決めていく。急に決まった月末の展示にも間に合いそうで一安心。

 午後は、事務所で仕事。デスクワークにスケッチ。夕方、DUNE社長と打ち合わせ一本。夜は、コミッションされたドローイングをクライアント宅まで引き渡し。えらく喜んでくれて、ドローイングの中に色々なものを彼は発見してくれてそれらについてあれこれとずっと話し込む。焼き肉をごちそうになる。深夜、帰宅途中また別の友人と偶然遭遇し、真新しい2009年のボージョレ・ヌーボーを一杯だけ頂く。

11月17日(火)
 午前中、メールなどの雑務。服飾デザイナーとのプロジェクトが急に動き出したので対応。生地にプリントするコラージュのパターンを整理してデータ化。午後、銅版画のアーカイブを整理。

 昼過ぎ、「mugenkai communication」のヨネと打ち合わせ。彼らが27日からオープンさせるイベントスペース&バー『M』の現場を視察し、ドローイングを展示するために提供することを約束する。どの壁にするかなどを検討。続けて、あざみ野にてテキスタイルのヤエザワ・プリントで打ち合わせ。かなりタイトな納期にも関わらず、やってもらえることで感謝。初めてとは思えない感触の上、他分野に精通しているのでこれからも一緒に何かをやってみたい。

 夜、事務所に戻って仕事。思えば、一日中冷たい雨が降っていた。深夜、アメリカに行っていた間の新聞を少しずつ読み返していたら、スクラップする興味深い記事がいつもより多くあった。

11月16日(月)
 午前中、メールなどの雑務。住宅Kのスケッチを進める。午後からグラフィックの仕事を仕上げる。印刷屋に持っていって無事完成。

 夕方、DOCOMOMO Japan × OZONE第一回セミナー『都市住宅の時代』と題して植田実と室伏次郎の対談を聞きにいく。70年代の住宅建築から始まって建築家のスタンスのあり方など具体的で面白い話が聞けた。都市に対する感覚の違いが建築表現に直接的に出てくることを再確認した。

 夜、再度住宅Kのスケッチを重ねる。深夜、目黒川沿いをランニング。

 久しぶりに「プロジェクト30」の「しおり」が届く。ロシアにいるドイツ人の友人から。彼は、バウハウス大学の卒業生らしく、油彩を使って幾何学模様を僕の線に無関係に力強く塗ってくれた。同封されていた手紙に、「実は日本旅行を企画していたが、博士論文が遅くなったので断念したため、このしおりを手渡すのができなくなったので郵送させてもらう、遅くなってすまん」とあった。累計79枚。

11月15日(日)
 雲一つない快晴。11月も折り返しなのに、まるで体育祭でもしたくなるような秋晴れ。午前中から服飾デザイナーと打ち合わせ。僕のドローイングからコ
ラージュしたパターンを生地にプリンする作業についてあれこれ。今まで知らないことに挑戦しているので面白くなりそうだ。

 午後、スウェーデンの友人と恵比寿でレイトランチ。近況報告からはじまって、海外で住むことについてなど色々と話し込む。僕がベルリンに行って感じたりしたことを彼は今、東京で感じたりしているのが興味深い。文化の方向が逆なだけで。

 夜、『This is it』(監督:ケニー・オルテガ、2009)を観る。マイケル・ジャクソンの幻のコンサートとなったロンドン公演のリハーサル風景に密着したドキュメンタリー映画。まずは、マイケルのかっこよさに驚嘆する。ダンスのステップはもちろんのこと、ステージ上での彼の動きのすべてが美しい。あの圧倒的存在感、魂のようなものが大きなスクリーンを通して伝わってくるのをひしひしと感じる。そして新しいものをつくって、ファンを喜ばせるという<King of POP>と言われる妥協亡きプロフェッショナリズム。彼は、リハーサルの締めで「さあ、みんな全力でやっていこう」ということを呼びかけるのだが、つねにトップギアで走り続けてきたからこそマイケル・ジャクソンは唯一無二のスーパースターになったのだろう。名曲ばかりの二時間に興奮し、あれだけのパフォーマンスができたのを観ると、尚更突然の訃報が不思議でならない。大いに悔やまれる。冥福を祈りたい。

11月14日(土)
 午前中、デスクワークと整理。昼から皇居を三周走る。皇居での昼食会に来ているオバマ大統領とニアミス。久しぶりのロングランで脚の裏に豆ができる。もう二週間後にフルマラソンが控えている。もっと走れないとまずいけど、慌ててもしょうがないので今週しっかり走ってあとは本番を楽しみたい。三度目の42,195キロのゴールにはどんな風景が待っているのだろうか。

 夕方、グラフィックの仕事の手直しを進める。もうすぐ完成。来週中には印刷できるだろう。夜、兄貴宅にて食事。甥と姪がまた成長してよく喋っていた。深夜、電気グルーヴの20周年記念番組を観る。独自の世界観を持っている人は最初から持っているものだと再確認する。究極のアウトサイダーは、最強にオリジナルになるのだろう。ヘンリー・ダージャーの水彩画が彼にしか描けないように。

11月13日(金)
 午前中、メールなどの雑務。午後、横浜みなとみらいホールへ。クライアントさんの招待でジュリエット・グレコさんのコンサートへ。初めてのシャンソン・コンサート。フランス語が喋れないのをすごく悔しく感じた。とにかく彼女がピアノとアコーディオンを伴奏に「声」という楽器をしゃべるようにして唄う姿に感動。黒いドレスから見える顔の表情と手の動きに見入ってしまう。ステージから染み渡るようにして二千人の観客の心にグレコさんの歌声が届く。その大らかさと深い感情の豊かさを忘れないでいたい。80分のステージ、水を飲むこと一つしないで語り、唄われたポエトリーな至福の時間。観衆に何度も深々とお礼をする姿が印象に残る。

 夜、グラフィックの仕事とインタビューの原稿整理作業を続ける。スポーツニュースで城島の阪神入団会見を見る。来年こそ猛虎復活に期待したい。

 深夜、『ハンナ・アーレント入門』(杉浦敏子、藤原書店、2002)を読み終わる。『人間の条件』を近く再読しようと思って、その前にアーレントの思想を整理しようと思って買った本なので全体像を掴むには良かったが、解説書というのは本人の著作に比べて説得力がないのはしょうがないか。

11月12日(木)
 午前中、版画やドローイングの整理。住宅Kのデザインを進める。

 午後、新宿のパークタワーまで行ってOZONEにて打ち合わせを一本。久しぶりに新宿に来た。印刷屋などに寄って事務所に戻る。メールなどの雑務。

 夕方、白井版画工房へ。年賀状のための銅版の試し刷り。そして、今までの銅板にカラーを使った二色刷りに初挑戦。ブルー系やグリーン系の組み合わせで今までにない表情が見えてきた。これはドローイングではできない、版画ならではメソッドなので、沢山のパターンをこれからも試してみたい。

 夜、小出流のトレーニングで目黒川を走る。さすがに負荷をかけているので、同じコースなのに昨日より少し遅くなった。深夜、ノルウェーに住む元同僚のつくっている雑誌掲載の依頼。そのためにドローイングのデータ化作業をして、メールで送信。

11月11日(水)
 午前中、年賀状のための銅版を彫り始める。午後、銀座で新しい案件の敷地をチェック。色々と難しいけど、やりがいのありそうなプロジェクトになってほしい。電車で昨日買った新書『マラソンは毎日走っても完走できない』(小出義雄、角川新書、2009)を読み終わる。今更だが、トレーイングの方法としてとても参考になることが沢山かいてあって、もっと早くこの本に出逢いたかった。河口湖マラソンまで三週間を切っている。

 FOILギャラリーにて『ズーム』鈴木まさこ展を観る。実に繊細に描かれた動物たち。目を凝らしてみてみると決して複雑ではなく、丹念に綺麗な幾何学模様を連続させているだけなのだが、全体としていきいきした絵画として観る者に迫ってくる。そうなると視点がどんどんミクロに向かっていって、細胞や遺伝子をイメージした内蔵のモチーフがあるのにも納得した。

 帰りにベルリン時代の友人が書いた本が出版されたので買う。じっくり読んでみよう。夜、住宅Kのデザインを再度考えて進めていく。一日中降っていた雨が止んだ深夜、早速、小出流トレーイングで「脚づくり」のためにペースと負荷を意識して目黒川沿いを半時間程走る。それから、シャワーを浴びてテンションも上がり、銅版に向かうと一気に年賀銅版が完成。明日、工房で試しに刷ってみよう。

11月10日(火)
 帰りのフライトは、隣の席が空いていたということもあってゆっくり休むことが出来た。搭乗の際、世界的チェリストが乗っていることに気づく。そういえば、行きの空港でも阪神タイガースのベテラン強打者に会ったのを思い出す。

 久しぶりの日本は、生暖かい風が吹いていた。バスに揺られて帰宅。荷物をほどいて、また日常生活に切り替える。近所の本屋で三冊程購入。夜からは雨が降り始めた。

11月9日(月)
 丁度20年前の今日、東ベルリンのドイツ人は自由に西ベルリンに行くことが出来るようになり、長らく都市を分断していたベルリンの壁が崩壊した。僕がベルリンに住んでいたのは2004年から2008年なので、もちろん壁のほとんどは道に残る二列のレンガと化していた訳だが、このことが歴史的に何を意味するのかを考えなければならないだろう。無関心や風化してしまうことを一番避けなければならない。
今日、記念式典で大きなドミノが1000個倒される予定らしい。

 早朝、暗い中、ニューアーク空港まで送ってもらう。シカゴ経由で成田まで。日付変更線をまたぐので、今度は当然一日なくなる。月曜日は空の上。到着は、日本時間で火曜日の午後。

 帰国したら、しっかりとこの旅の収穫を色んな形でアウトプットしていきたい。

11月8日(日)
 朝、近所を少し走って身体を起こす。もうすっかりこのコースにも慣れてきたし、ペースも少しばかり早くなった。三週間後のフルマラソンを考えると、アメリカでもっと走り込みたかったが、まずまずといったところか。

 『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波文庫、1984)を読み終わる。旅の準備をしている時に、ふと本棚にみつけて再読してみたくなった。旅を通じて調査した農村民の老人たちとの実に濃厚な対話から生まれた話が語られている。沢山の声が聞こえてくるようで、読んでいて実に面白かった。土佐源氏の話が印象的。「今日の文化をきずきあげて来た生産者のエネルギーというものが、どういう人間関係や環境の中から生まれ出て来たか」という宮本常一の旅の原点が多面的に表現されていて、民族学者として最良の仕事の一つだろう。

 旅の最終日は、両親とゴルフ。快晴の下、18ホールをラウンドする。テントウ虫や赤とんぼが沢山いて、のどかな自然の中あっちこっちと小さな球を打ち回る。

 夜は、グラフィックの仕事のフィードバック作業。映像に更に加工したり、文字情報を足したりして終了。再度メールで日本に送信。その後、夜な夜な帰国の準備。部屋の整理と荷作りなど。

11月7日(土)
 ドライブ日和。車に乗って、自分の生まれた病院や住んでいた家を見に行く。スケール感などの印象が違うものの、やはり何か懐かしいものを感じる。

 あと二日となったアメリカの旅、今日もやはり行き先はマンハッタン。メトロポリタン美術館。企画されていた『art of SAMURAI』展では、たくさんの鎧や刀が展示されていて、日本の精度ある技術や独自な装飾性に驚かされる。あの過剰さは、どこからくるのだろうか。時間に耐えた実物のもつ力を感じる。フェルメールも一挙に六作品が企画展として集まっていて、その光の美しさに再度驚嘆する。少し前にフェルメールの映画を観たばかりなので興味深い。また、アメリカを代表する写真家ロバート・フランクの回顧展もやっていて、フランスのアジェと対比してアメリカを切り取り続けて来た写真家の目線が印象的。とても良質な写真の連続だった。ルーフトップには、ステンレスの木をつくる作品で知られるロクシー・ペインのインスタレーションがあった。セントラルパーク越しに見えるマンハッタンのスカイラインがまた違った表情をしていた。もう月の右側が大きく欠けてきた。

11月6日(金)
 今日も朝6時に目が覚めて、近所を半時間ほどジョギングする。シャワーを浴びて、バスでマンハッタンに向かう。ワールドシリーズを制覇したヤンキースのパレードを観に行くも、シティー・ホール周辺は100万人の観客で身動き一つ取れない状態だった。バスに乗った選手をカメラが僅かながらに捉える程だったが、紙吹雪といい、臨場感あふれるニューヨークは特別な体験となった。

 昼は、大好きなパストラミのサンドウィッチをKATZ'sまで食べに行って、ソーホーをブラブラする。スティーブン・ホールの設計したヒンジド・スペースのギャラリーを覗いたりしてゆっくりする。夜は、JAZZ STANDARDにてVijay Iyer Trioの演奏を聴く。ピアノとベースとドラム。三つの異なる楽器が奏でる音楽が頭の中で不思議な映像を生み出す。帰りは、ハドソン・リバー越しにマンハッタンの夜景を見る。冬の空気は澄んでいて、いつになく美しい摩天楼に見入ってします。

11月5日(木)
 午前中、やりはじめたグラフィックの仕事を仕上げて第一段階を終了。メールで日本に送信。

 『歩いても歩いても』(監督:是枝裕和、2008)のDVDを観る。兄の命日に家族が集まって起きた一日の出来事の話。食事を中心に家族それぞれに色々な思惑があって、錯綜する中に人生における価値観の多様性を感じる。この映画には沢山の幸福の種が提示されていて、現代に蘇った小津安二郎のようだ。また洗礼された映像が川内倫子の写真を思わせた。息子が帰りのバスの中で語った「いつもちょっと間に合わないんだ」というのが監督自身にとってこの映画を撮らなければならなかった決定的な動機なのだろう。しかし、是枝作品のキャスティングは実に絶妙。

 午後、近所の大きな公園をゆっくり走る。芝生や土の上を木々や小川に沿って走るのは、壮快で気持ちいい。地面が柔らかいと当然膝やかかとにかかる負担も少なくて良い。

 夜、先日亡くなった文化人類学者のレヴィ=ストロースの名著『野生の思考』(クロード・レヴィ=ストロース、みすず書房、1976)を読み始める。百歳を超えるまで生きた言わずと知れた知の巨人。学生時代ぶりの再読でどんな発見があるか楽しみたい。

11月4日(水)
 朝6時に目が覚めてしまい、暗い中近所を半時間ほど走る。東の空が徐々に明るくなるのを感じながら、西の空には満月が輝いていた。不思議なもので、空気が澄んでいるせいか「餅つきしているうさぎ」が日本で見る満月よりはっきり見える。

 午前中、近くを車でドライブ。こっちで運転しているとアメリカの横断歩道の白線の間隔が異常に広いことに気がついた。あれだけ間隔が広がるとゼブラゾーンとして認識しづらい。

 午後、頼まれていたグラフィックの仕事に取りかかる。集中して作業したらポスターの下地まで進んだ。こっちにいる間に仕上げて、東京で印刷したい。

 夜、ワールドシリーズ第六戦。ポストシーズン歴代最多勝投手のペティットが因縁のライバル、マルチネスと投げ合った。松井は、三打席連続で走者のいるチャンスで見事にホームラン、タイムリー、二塁打と六打点の大活躍。五万人のヤンキースファンが第四打席に立つ松井に向かって「MVP」と連呼した時は、何とも高揚した。歴史に名を残す快挙。そして、又しても守護神・リベラがピシャリと押さえて27回目のワールドシリーズ制覇を達成。92年と93年のトロント・ブルージェイズの優勝もスカイドームで観ることが出来たが、09年の新設ヤンキースタジアム初年度で9年ぶりの優勝は圧巻。「We are the CHAMPION」と「New York New York」を熱唱。地元優勝というこれ以上ないシーズンの締めくくりの承認となれて最高の旅となった。駐車場に向かう帰路、スタジアムの外は想像通りのドンチャン騒ぎ。眠らない街、ニューヨーク。

11月3日(火)
 朝早く起きて、ニュージャージーに戻る。久しぶりに車を運転して、二時間程で帰宅。日本でもあまり運転しないので、右側通行にはすぐに慣れた。広いハイウェイから視えるのは、紅葉の終わりかけた木々に錆びたガードレール、連続する防音壁に等間隔に立つ頼りない街灯たち。

 『百万円と苦虫女』(監督:タナダユキ、2008)のDVDを観る。ありふれた郊外の団地に住む佐藤鈴子の物語。実に透明感のある演技で終始画面を圧倒した蒼井優の才能には驚かされる。家族崩壊、都市と田舎、恋愛までたくさんの要素が彼女の旅を軸に展開される。何かを選択しなければならない難しさと葛藤。見えない世間という存在に立ち向かう強さと弱さなどデリケートに描いていて、ラストシーンもまた印象的。女性監督の感性か。

 午後、ベルリンでやったインタビューの原稿に手を加える。久しぶりに作業する時間ができたので、進めてみたい。

 夜、『BY THE PEOPLE』というオバマ大統領の選挙活動に密着したドキュメンタリー映画を観る。第44代アメリカ合衆国大統領登場までに彼が多くのスタッフによって経済危機、人種、雇用問題などを乗り越えた21ヶ月にも及ぶ壮絶な戦いに臨む姿を捉えている。丁度一年前の明日、選挙に勝ってこの国は歓喜した。そして、今年の初めの演説は記憶に新しい。「Yes, We can」「Change」などを盛り込んだスピーチ・ライターとのエピソードもしかり、とにかくこの歴史的な出来事をたくさんの小さな物語が支えていることをよく示している良質なドキュメンタリー映画だった。就任一周年記念にこうして公開されて、本人もまた初心を忘れずに「勝って兜の緒を締めよ」といった心境か。

11月2日(月)
 曇り空の中、今日もゆっくりフィラデルフィアをドライブ。ドイツで日本車を見ることは稀だったが、アメリカにはたくさんのTOYOTA、HONDA、NISSANが走っている。

 『同じ時のなかで』(スーザン・ソンタグ、NTT出版、2009)を読み終わる。ソンタグの遺作となった本で、実に豊か広がりを持った文学批評を中心に、生前最後となったタイトルと同名のスピーチが収録されている。ロシア文学に触れることがないが、すごく読んでみたいと思わせる魅力的な文章だった。911についての言及も軸がぶれることなく実に説得力のある言葉が続く。サイードもそうだったが、ソンタグの死で我々はもかけがいのない知性を失った。

 夜、ワールドシリーズ第五戦。初めての中三日での登板を強行したヤンキースのバーネットが打ち込まれて三回途中で降板。代打で松井のヒットも飛び出し、終盤に見せ場を作ったものの敗戦。三勝二敗と依然ヤンキースの王手で地元に戻ることになった。新スタジアムで27度目のチャンピオン制覇を実現すれば2009年もまた歴史に名を刻むシーズンとなるだろう。

11月1日(日)
 気持ちよく晴れて、フィラデルフィアの市内を散歩。目的地は、ベンジャミン・フランクリンの家。ベンチューリによってフレームだけを象徴的に復元し、地下にミュージアムが埋め込まれた施設を見学。18世紀のアメリカ建国に多大な貢献をした人物で、100ドル紙幣になっているフランクリンの偉業の数々を知る。それからリバティー・ベルを10年以上ぶりに観て、フランクリンの眠る墓地も訪れる。秋の涼しい風が紅葉した落ち葉と一緒になって長い散歩を彩ってくれる。

 夜、ワールドシリーズ第四戦。中三日でエースのサバシアを投入したヤンキースに対して、フィリーズは初戦で力投したリーが登板せずに明暗を分けた。粘りの野球で八回まで同点で迎えた最終回、連日の死球でフラストレーションのたまる四番ロドリゲスがツーアウトからの二点タイムリーで試合を決める。初戦を落としてからの三連勝。ついに9年ぶり27度目の優勝に王手となった。個人的には、敵地よりホームスタジムでの優勝を観てみたいものだが。

 実際に観戦するベースボールは、ファンの声援や白球がバットに当たる乾いた音など、テレビでは伝わらない臨場感などが体験できて素晴らしい。試合前の国歌斉唱や七回の『ゴッド・ブレス・アメリカ』の斉唱の際にこのスポーツが国を一つに団結する盛り上がりを見せている様子を実感する。911以後、連鎖する戦争や近年の経済危機も含めてベースボールには、それらを一時的にでも忘れ、一喜一憂して感動する力があるのだろう。

 

▲ go to top of the page

 


TOP