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『EVERYDAY NOTES』

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『OPENNING NOTE』

 
 

EVERYDAY NOTES - archive - 2011 july

7月31日(日)
 朝、ゆっくりいつものように朝食を食べて、シンポジウム会場へ。今日の午前中で終わるが、僕はシュトゥットガルトから来た友人に車で送ってもらうため、一足先に失礼することに。みんなと固い握手とハグをしてベルリンに向かう。車内では友人のレクチャーの感想をはじめ、あれこれと話し込む。途中の中央駅で下りて、そこからDBの電車に乗ってベルリンへ。パソコンの電源が持つ限り「ほぼ日」の原稿を進めて、ダウンしたら読書。『いきなりはじめる仏教生活』(釈徹宗、新潮文庫、2011)を読み進める。車との移動を加えると7時間以上かけての移動で、夜、雨振るベルリンに到着。

 懐かしい気持ちで友人たちとオスト駅で合流。ドイツ料理が続いたので、クロイツベルグのアジアンレストランで食事。そのまま、バーで飲む。日本でのことやレクチャーについて熱く語り合っていたらあっという間に日付が変わっていた。

7月30日(土)
 フェルクリンゲン三日目の朝もすっきり快晴。カメラ片手に写真散歩。この製鉄所の廃墟がなぜ美しく感じるのかについて考える。きっと建築の持ち得る情報発信力の強さに比例するのだろう。この場所に積層された時間の感覚がどっしりとした強度でもってわれわれに訴えてくる。午前中にシュトゥットガルトから日本人の友人が車で駆けつけてくれた。ドイツの企業で働く彼は、二ヶ月前からドイツ暮らし。Facebookで連絡を取り合って、週末ということで僕のレクチャーをわざわざ聴きにきてくれた。実にアツイ奴で、こうした友人に僕は支えられているのを実感する。

 シンポジウム二日目がメイン。最初のレクチャーは「空間と意味」と題されて資本主義経済のマーケティングという手法についての考察が展開された。続けて僕の番。レクチャーのタイトルは「Rearranging Architecture by Nature」。北斎の浮世絵が動き続ける波(水)を捉えて時間を止めたかのようなダインミズムがあることからスタート。日本人の「無常」という精神性がもつ自然に対する感覚について話す。美しくもあり、また恐ろしい存在にもなる自然に対して、ある種霊的なものとして、また八百万の神として捉えてきた話を展開。日本の地図を見ながら、地理的なことを押さえ、4枚のプレートが複雑に絡み合い、多くの活断層があることを説明。それから95年の阪神大震災と3.11の東日本大震災について紹介。都市の脆弱性の露出。地震と津波の驚異をいかにして避けがたい災害の被害を減少できるかについて話す。地震予知や津波計測の技術向上の必要性。また福島原発における都市と地方が依存する関係の抱える問題にも言及。そこから再度「無常」の感覚に根付いた「あきらめ」について話してから、伊勢神宮の式年遷宮についてレクチャー。神との関係や建築技術の伝承といった側面を話し、現代都市のスクラップ&ビルドについて意見を述べる。大量生産、大量消費に支えられた資本主義中心の概念が建築(空間)における物語を軽薄にしてしまったのではないか。昔の日本建築がいかに自然と対峙したかのサンプルとして、三仏投入堂/笠森寺/清水寺のさしかけ建築について紹介。また東大寺法華堂における400年の時差を同居させたデザインの可能性について話す。最後に理論と実践として、凱風館を紹介。そこに込められた小さな、大事な物語たち(美山の杉/土/加子母の檜/淡路の瓦/テキスタイル/老松)についてスライドを見せて「みんなの家(everybodys house)」として紹介。会場の目がぐっとスクリーンを眺める。そして、物語の紡ぎ方としてのドローイングや銅版画についても最後に紹介。あっという間の90分であった。会場からは実に暖かい大きな拍手がわき起こり、達成感に包まれる。「Your lecture was the BEST!」という言葉に感動。皆すごくよく理解してくれたようで、その後も参加者からあれこれ質問を受ける。

 午後は、3本のレクチャー。公共空間と行動パターンについて、都市と危険について、空間の再定義と題されたハードコアな発表が続く。夕方、休み時間を利用して今日もフェルクリンゲン製鉄所に入る。廃墟のもつ空間の魅力にたっぷり浸りながら写真を撮り続ける。

 夜、都市と移動をテーマに渋滞について考えるワークショップをやって終了。美味しいクスクスとファラフェルを食べながら盛り上がる。そのままビールを飲みながらの打ち上げ。明日は午前中だけなので、ほぼ終わったといった感想。とにかくやりきって、招待してもらえた喜びを噛み締めながらの宴。

7月29日(金)
 朝、昨日のように宿のカンティーネでおばちゃんとドイツ語でお話ししながらの朝食を頂く。パンとハムとチーズに、コーヒーとオレンジジュース。歩いてフェルトリンゲン製鉄所まで行って、メールなどの雑務。早速「ほぼ日」の連載の感想が届く。(一人一人に返事を書きたいくらい)僕の言葉が真摯に伝わっているようで嬉しくなると共に、これからも等身大の物語を伝えられるように頑張らねばならない。身の引き締まる思いだが、とっても楽しみでもある。

 午後、フェルトリンゲン製鉄所を見学する。廃墟。20世紀の産業として鉄の生産が最も重要だった時代の音が聴こえてくるような空間。時間は無常にも過ぎて、生産性の高かったであろう機械たちはその役目を終え、すっかり錆びついてしまった。そこにあるのは、年老いた、しかし、美しい造形美。ピラネージの牢獄シリーズの版画の世界にも似た印象を受ける。とにかくさすが世界遺産。いくら一部をミュージアムにリノベートしたとはいえ、空間の構造的がアートを寄せ付けない強さを放っていた感じがした。

 午後からシンポジウム開始。ドイツ語のレクチャー2本はさすがに厳しいが、通訳の助けもあり、大枠は理解することができた。公共スペースとそれに対するアプローチについて。夕方、ウィーン出身の二人組アーティストによるワークショップでフェルトリンゲンの街を散策。これは何ともアヴァンギャルドな感じ。僕をここに招待してくれたフロリアンと初めて会う。ずっとスカイプだけでここまでやりとりしていた。彼のアートワークも見せてもらう。

 夜、じゃがいも料理を食しながら、みんなであれこれ議論する。実に有効な対話ができた。その後、ビールを3本も飲んでしまい、すっかり気持ちよくなる。ふらふらになってライトアップされた世界遺産を撮る。深夜はホテルに帰って、再度レクチャーをブラッシュアップしてまた柔らかめのベットで寝る。

7月28日(木)
 いささか柔らかいベットではあったが、ぐっすり寝て旅の疲れを取る。ザール川沿いを朝霧の中、ゆっくり散歩。宿に戻って朝食。ドイツはパンとチーズとハムが定番。宿の主である陽気なおばちゃんとドイツ語であれこれ談議。ルクセンブルグとフランス国境に近いので、ドイツ人としてのプライドみたいなことについて話していたように理解。

 世界遺産のフェルクリンゲン製鉄所にてレクチャーの準備を進める。また、同時に日本では「ほぼ日」の連載『みんなの家。建築家一年生の初仕事。』がはじまり、早速多くの反響を頂く。これは誠に嬉しいことで、しっかりと「凱風館」の完成まで等身大の物語を伝えたい。

 午後、ザールブリュッケンに行く。ドイツ地方都市の典型。ベルリンと違って、ドイツ人ばかりでホモジニアスな印象。東洋人の姿が皆無。中心街をゆっくりある歩きながらあれこれ考える。市庁舎が立派にそびえ立っていた。ドナー・ケバブを食す。喫茶店に入って『いきなりはじめる仏教生活』(釈徹宗、新潮文庫、2011)を読み始める。釈先生とはいつもお世話になっているが、本を読むのは初めて大変面白かった。特に宗教に対する前提の柔軟性や「十牛図」の話が印象的。ドタバタ出国の中、この本をピックアップして正解だった。それからフェルクリンゲンに帰って来て、製鉄所をスケッチする。

 夜、再度またレクチャーのブラッシュアップ作業とメールなどの雑務。僕は日頃から色んな時間帯にメールを打つ人だが、今日は日本時間で夜中の4時、5時にメールを送って申し訳ない。運営者らの顔と名前も一致しはじめ、楽しく夕食。リノベーションなどについて軽い議論。深夜、早々に寝る。体力の充電期間。

7月27日(水)
 思い出すだけでもぞっとするような旅の出発だったが、機内に入ってしまえば、そんなことを忘れて機内食も食べずに爆睡、爆睡。7時間くらいして起き、目覚ましに映画『UNKNOWN』(監督:ジャウム・コレット=セラ、2011)を見る。ベルリンを舞台にしているという理由だけで見たが、ベルリンが舞台であるということだけが面白かった。今朝のスリリングなドタバタ出国に比べれば、この映画のサスペンスなど、どうってことなかった。往年の役者ブルーノ・ガンツが出ていて、ドイツ映画には欠かせない存在だと再確認。目も覚めたところで、シンポジウムのレクチャーの準備を進める。スライドも60枚に達し、レクチャーの大枠の流れが見えて来たので、一安心。いよいよ3年ぶりのドイツにワクワクする。

 14時半、フランクフルト空港に無事到着。ドイツ語が飛び交う環境が妙に懐かしい。そんなに思ったよりドイツ語を忘れてないかもしれない。電車を乗り継ぎ更に4時間弱でフェルクリンゲンに到着。世界遺産の製鉄所がある街とは知っていたが、まさかシンポジウムをするのがその世界遺産の中とは思ってもみなかった。駅で企画者のミアジャムに迎えに来てもらい、会場を案内してもらう。その後手配してもらったホテルに荷物を置き、みんなでウェルカムディナーのBBQをしてくれた。日本から来たというと、みんな3.11のことを聞いてくる。大いに盛り上がって、英語とドイツ語をフル回転で使ってると流石に疲れてしまうも、今日こそは思う存分寝られそうだ。幸せ。ドイツにはドイツの日常がある。

7月26日(火)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。チャリティーイベントのROSESの会場構成のコンセプトスケッチをまとめる。午後、F歯科医院の設計を進める。来月の第二プレゼンに向けてイメージを膨らませる。

 夕方、表参道にてROSESの会場構成についての打ち合わせ。いろいろとタイトな予算の中で面白いことがやれるように考えたい。

 深夜、シンポジウムの準備をほどほどに、そろそろ荷造りをしようとしたら、ソファーで寝てしまうという失態。日頃の寝不足が祟ったのか、電気を付けたまま、テレビも付けっぱなしで、寝ること3時間。6時8分に間が覚めた。しかし、予定では徹夜して5時58分の電車で出発予定だったのし、荷造りゼロなので、あせりマックス!コロコロのスーツケースにそこらへんのシャツとズボンと下着を投げ込み、リュックにはパスポートとパソコン、カメラ、スケッチブックを詰め込んだ。最後にパソコンからシンポジウムのレクチャーを取り出して、USBに保存したら6時26分に部屋を飛び出した。32分の山手線に汗だくで乗り込み、無事成田エクスプレスにも乗り継ぎ、空港に到着。予定より半時間遅いが、フライトの90分前だったので問題なし。しかし、久しぶりにあせってしまった。基本的には余裕を持って何でもやる太刀なので、ここまでテンパッタのは久しぶり。心臓がハラハラドキドキ、色んな種類の汗がタラタラ。いやはや、あわや人生初のフライト逃しを首の皮一枚で免れた。(荷造りの不備に関しては諦めているので、足りない物はドイツで買うことにしよう)LH711便にて雲の上の人となる。

7月25日(月)
 朝から「凱風館」の現場で打ち合わせ。金箱構造設計事務所の坂田さんが現場に来て、ガラス屋根などの構造チェック。続けて、安東陽子さんが現場に来て、内田先生夫妻とカーテンやロールスクリーンについてあれこれ打ち合わせ。キックオフミーティングなので、サンプルを見ながらざっくりとした方向性を確認。更に内田先生と書斎の打ち合わせ。先日のアイデアを盛り込んで、整理されたデザインでゴーサインを頂く。
現場の向う十日間の進み具合を確認し、天井や仕上げ材における指示を出す。4時間みっちり打ち合わせをし、新幹線に飛び乗る。シンポジウムの準備のため読書を進めながら、レクチャーの構想を練る。

 夕方、桑沢デザイン研究所へ。3ヶ月ぶりに学生たちと会って『デザイン論』の前期最終授業。「デザインとは何か?」という命題に対して学生たちがプレゼンする。よりよくする/利便性の向上/他者への想像力/コミュニケーションなど皆が真面目でよく似たことを言っていた。さすがに40人の発表が似てると、教科書的で、発想が固いという印象を受けてしまう。デザインは難しいけど、楽しい行為であるということをみつけるための自身の勉強法を学生たちにはみつけてほしい。旅が一番の薬。自分の言葉で思考する癖を身につけてもらいたい。夜、後ろ髪を引っ張られながら学生たちとの打ち上げ飲み会を断り、帰宅。メールで届いた「ほぼ日」の最終原稿のチェック。ここで告知させてもらいます。

『みんなの家。建築家一年生の初仕事。』文:光嶋裕介、という連載が今週の木曜日(7/28)からスタートします。「凱風館」をどのようにして考え、どのようにして設計したか。そこに盛り込まれた幾重にも重なる物語を伝えたい。建築の奏でる音楽を届けたい。建築オリエンテッドでないメディアだからこそ「建築って面白い」と思ってもらえるような話を心掛けて、完成までの臨場感を伝えられたらと思っています。どうぞ宜しくお願いします。

 深夜、チャリティーイベントROSESの会場構成の第一案をまとめて、送信。続けて、ドイツでのシンポジウム用のレクチャーをまた進める。

7月24日(日)
 朝一の電車で神戸へ。現場にて設計の打ち合わせ。和室のあれこれ。昼前、内田先生と新潮社の足立女史と合流し、一同淡路島へ。目的はカワラマンこと山田脩二さんと瓦にまつわる話を伺いに行った。一時間ちょっとのドライブで到着。早速、だるま釜を見せてもらいながら、瓦について説明を受ける。イブシの美しい深みのある黒に惹かれる。土の肌理も細かいものから荒いものまで表情が色々あって想像が膨らむ。

 ローストビーフに地元の野菜たっぷりの美味しい昼食を頂きながら、みんなで色んな話で盛り上がる。その後ご自宅の二階にある暗室で、脩二さんによるスライドショー。日本の風景を採り続けたスライドを、ご機嫌な脩二さんの解説つきで見入る。

 夕方、倭文に移動し、内田先生の支援している橘さんが育てるファームを見学。農業についての問題点をあれこれ聞いていると、それは、林業でも、またきっと水産業でも、フロントラインで働く人たちがみなもっている共通点が見え隠れする。世代間の伝承をいかようにして、可能にするか。少子高齢化が起きている中、マイナス成長する社会においてどのようなシステムを構築すべきかを考え続けなければならない。隣保や田水など社会に根付いた構造を知る。まだ見ぬ葡萄園とワイン作りに思いを馳せる。

 夜は皆で再度ビールを二杯ほど頂き、解散。神戸まで戻って、電車で奈良まで帰る。打ち合わせのおさらいをして、議事録を立ち上げたら、風呂に入って寝る。充実した淡路島の旅となった。

7月23日(土)
 午前中、メールなどの雑務とデスクワーク。出張の準備をして、昼の新幹線に乗って神戸へ。車中、来週のドイツでのシンポジウムの準備のための読書と睡眠を交互に。

 午後、灘駅にて甲南麻雀連盟の湯川女史と合流し、神戸の阪神・淡路大震災記念/人と防災未来センターを見学。95年の震災を追体験する映像や資料がたくさんあって、3.11の東日本大震災と同時に「自然と建築/都市のあり方」などについて思考を巡らせる。いかにして、建築の自然の猛威と共存するか、災害を最小限にするためには何ができるのか?建築(人工物)も人間の生命も永遠ではないということを前提に考えると、日本人の精神がどこか「無常」と繋がっていて、伊勢神宮の式年遷宮やさしかけ建築との共通性について考える。湯川さんからスペインの話やあれこれを意見交換することでレクチャーの骨格が少しずつ見えて来た。

 帰りの近鉄電車は爆睡。夜、シンポジウムのスライドを作り始める。深夜、母校の小学校までランニング。まだまだ思うように走れてないから、そろそろギアアップせねば、大阪マラソンは悪夢になるな。『思想としての3.11』を読み進める。シンガーのエイミー・ワインハウスがロンドンの自宅で死去したとのニュースに驚く。27歳。カートもジミーもジャニスも、その歳だったな。「リハビリ」が実らなかったのね。冥福を祈る。

7月22日(金)
 連日の涼しさでぐっすり寝ることができた。午前中、メールなどの雑務。ドイツのシンポジウムの準備を進める。震災、建築と自然、都市について考える。昼、「凱風館」の外構のスケッチを進めて、淡路島の瓦の使い方についてあれこれ考えながらアイデアをまとめていく。

 午後、SDレビュー入選の報告を頂く。すっごく嬉しい。学生時代から知っている若手の登竜門としてのコンペ。自分もあの舞台に立ってみたいと昔から思っていて、まさか、初仕事でこうして入選することができ込み上げてくるものがある。これもすべて内田先生をはじめ、多くの方々の想いを受け、よりよい建築を目指して妥協なき挑戦に全力投球させてもらっているおかげです。この場をお借りして感謝の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございます。9月には代官山ヒルサイドテラスで展覧会、続けて大阪でも展覧会。12月にはこのコンペが一冊のコンペとしてまとめられます。いやはや、背筋がピンとしますが、引き続き邁進していきたいと思います。まずは、「凱風館」を魅力的な建築としてしっかりと晩秋の竣工に向けてまとめあげることが何よりの恩返し。頑張ります!

 夜、ROSESの会場構成のスケッチとアイデアをまとめる。そして、明日からの出張の準備を進める。深夜、プレゼン資料がまとまる。今日は、とっても嬉しい一日となった。

7月21日(木)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。昼前、表参道ヒルズにて会場構成について打ち合わせ。続けて、渕上さんらとチャリティーイベントROSESについてあれこれと話し合う。もう時間もお金もないので、しっかりでできることをやりきりたい。

 午後、「凱風館」の書斎の設計を進める。細かい棚板の配置や大きさを色々と検討していく。続けて和室についてもスタディーを進めて、模型でチェック。外構に関してもあれこれと検討。

 深夜、『思想としての3.11』を読み進める。やはり、佐々木中氏の文章が心に残る。

7月20日(水)
 朝から強い風が吹き付ける。台風6号がゆっくりと北上しているようだ。雨も降り蒸し暑い。午前中、メールなどの雑務とデスクワーク。昼から「凱風館」の打ち合わせ資料の整理とデザイン項目のリストアップ。家具などのスケッチも進める。

 午後、ROSESについてあれこれと会場構成について考える。夕方、青山で打ち合わせ一本。話が早い。実に頼もしい。夜、ドイツでのシンポジウムの仕込みを進める。『復興の精神』(新潮新書、2011)などを読み進める。ブレストを始める。しっかりと日本人建築家としての声をまとめたい。今の自分にとっても大きなチャレンジだ。

7月19日(火)
 午前中、メールなどの雑務と打ち合わせの議事録作成して、送信。
昼、台風6号の近づく中、新幹線で帰京。車中『思想としての3.11』(河出書房新社編集部編、河出書房新社、2011)を読み始める。月末のドイツでのシンポジウムについてあれこれ考える。そろそろ本格的に準備せねば。

 夕方、「凱風館」の写真を整理して現場レポートを完成させて、これからの動きについて整理していく。外構のデザインについても考える。夜、ホームページのアーカイビング。それから「ほぼ日」の原稿を進めながら、画像選びをしていく楽しい作業。

 深夜、凄い風の吹く中、目黒川沿いをランニング。久しぶりにいい汗かくも、まだまだ身体を絞らねば。ゆっくり読書して寝る。是枝監督作品にも良く出ていた原田芳雄氏が亡くなった。独特の存在感がスクリーンに広がり、好きな役者だった。冥福を祈りたい。また、泥臭い相撲でついに歴代1位の勝利数に達した魁皇関が引退を発表。とても残念だが、今は心より「お疲れさまでした」と伝えたい。

7月18日(月)
 朝3時にセットしたアラームに気付くことなく寝入ってしまい、なでしこジャパンの「ワールドカップ優勝」という歴史的快挙を見逃してしまう。あらら、残念。しかし、大輪の華を咲かせたようだ。

 午前中、「凱風館」にて井上左官職と打ち合わせ。外壁と内壁の土壁に関して大枠をしっかりと確認しながら、細かいディテールに関してもしっかりと話し合う。午後は、和室、書斎、階段などについてあれこれと打ち合わせ。仕上げについても検討を続ける。天井の仕上げも進み、いよいよ仕上げ工事に入っていく。玄関脇のガラスの小端使いもバシッと設置され、シャープな印象になった。

 夜は、雨の中、奈良の実家に帰る。打ち合わせの議事録や現場レポートの作成を始める。なでしこジャパン対アメリカの決勝戦の再放送を観る。結果を知っているのにあれだけ面白くサッカーを楽しめるとは。ビハインドから諦めずに追いついた宮間選手と澤選手のゴールシーンにはジーンと来た。選手たちのスポーツマンシップに感動し、誇らしい笑顔に勇気をもらった。

 深夜、読書しながら、月末のドイツでのシンポジウムについてブレストを開始。『Rearranging Architecture by Nature』と題してレクチャー予定。

7月17日(日)
 朝6時台の新幹線で神戸に向かう。午前中、御影にて内田先生夫妻と設計の打ち合わせ。玄関と和室、書斎についてあれこれと話しあう。細かいポイントが決まっていく。完成まで、こうした対話を更に重ねてよりよい建築に仕上げたい。

 昼、甲南麻雀定例会。山本画伯が登場した時に事件は発覚した。内田先生の『ためらい倫理学』が角川より文庫版が出ることになり、初版が届いた。装丁はいつものように「山本浩二」となっているから確認したら、「えっ、そんな仕事知らないよ」という。なんと編集者のミスでなんと同姓同名の山本浩二さんに依頼してしまったのである。いやはや、なんということ。これで大いに盛り上がり、麻雀スタート。何だか面白いように引きが強くよく勝った。4戦3勝。今日も楽しい例会となった。

 深夜、「ほぼ日」の原稿の推敲。いよいよ入稿に向けて最後のブラッシュアップ。文章はつねに柔らかいもので、よく動き、自分で書いててもちょっとした変更で印象が変わる。難しいけど、これを続けて言語化能力を高めたいし、より多くの人に「建築の面白さ」を伝えたい。

7月16日(土)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。昼、「凱風館」の打ち合わせ資料などの準備を進める。午後、「ほぼ日」の原稿と画像をピックアップし、まとめていって、送信。

 夕方、六本木の21_21へ行って『倉俣史朗とエットレ・ソットサス』の展覧会を観る。倉俣作品の材料の選択にホレボレする。アクリルにエキスパンドメタル。造形も洗礼されていて、潔い。ミス・ブランチを4脚同時に観たのは初めて。

 夜、事務所の掃除と出張の準備。NHK『前衛芸術家、草間彌生の疾走』を観る。82歳にしてその芸術的エネルギーの大きさに圧倒される。自身をカメラの前でさらけ出し、興味深いドキュメンタリーだった。気がつけば、7月も折り返し。このまま、エンジン全開で頑張っていこう。

7月15日(金)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。午後、「凱風館」の玄関や照明、和室の床の間のデザインなどの検討資料をまとめる。夕方、中野にてフクヘンこと鈴木芳雄さんの写真展『シヤシン、フクヘン』展を観る。編集者としての仕事と共に撮り続けた写真群。それぞれの視点や構成が特徴的で、グルスキーやティルマンスを思わせる作品を会場で本人に観せてもらう。ベルリンのテンペルホフ空港と飛行機からの写真を2点購入する。

 夜、NHK交響楽団のコンサートへ。指揮者はフィンランド人女性のスザンナ・マルッキ氏。ベルリオーズ「ローマの謝肉祭」の後、ベルリンフィルのコンサートマスター、樫本大進さんを迎えてのラロ「スペイン交響曲」。実にしっとりと舞い上がるようなエロティックな音楽に酔いしれる。後半は、ベートーヴェン「交響曲5番」。NHK交響楽団は、ピタッと綺麗な音楽を奏でていて、心情の抑揚で酔いそうになった。こうして生のクラシックのコンサートにもっと頻繁に通いたい。ベルリンから一時帰国中の友人に樫本大進さんを楽屋で紹介してもらい、挨拶をする。とても気さくで素敵な方だった。79年生まれやベルリンという共通点もあり、大いに刺激になる。

 深夜、友人とゆっくり飲む。2年ぶりの再会で、ドイツでステージマネージャーとして職を得て頑張っている。音楽談義に華が咲く。

7月14日(木)
 朝方、なでしこジャパンの準決勝を見る。大野選手のドリブル突破に宮間選手の正確なキック、澤選手の献身的な守備と鮫島選手のオーバーラップ。初めて見た時は男子サッカーとのスピードやパワーの差に魅力を感じなかったが、今では、女子サッカーならではの面白さを知った。強豪スウェーデンに3-1の快勝。初スタメンの川澄選手の2ゴールにはしびれた。あのループシュートは芸術的。この勢いは本物。自信をもってアメリカとの決勝戦に挑んでもらいたい。

 午前中、メールなどの雑務を済ませて、日大船橋校へ。ベーシック建築デザインの前期最終授業。「マイスペース」課題のエスキース。みんなに発表してもらい、それぞれの切り口について指導。いよいよテクニックの製図から創作課題に変わり、これからが楽しみになってきた。

 夕方、先生方みなさんと前期の打ち上げ反省会を両国で。美味しいとんかくを食しながら、あれこれと話し合う。あっという間の前期終了になったが、とても有意義な時間を過ごさせてもらった。これからもしっかり頑張りたい。

 夜、代々木上原にてチャリティーイベントROSESの打ち合わせ。会場構成のデザインについてもあれこれ、アイデアを話しあう。予算はないけど、いかようにして良いものをつくるか。できることをやってみたい。

 深夜ヘトヘトになって帰宅。さすがにランニングに行くこともできずにバタン。

7月13日(水)
 午前中、メールなどの雑務。近鉄電車に乗って「凱風館」の現場へ。二階の天井工事が丁寧に進められている。造園家の野口くんが現場を見に来た。ガーデンテラスについてあれこれ話し合う。

 昼、内田先生の奥様と中島工務店の鷲見さんとで姫路の銘木市場へ。和室の床柱や床框について、いろんな銘木を見ながら検討する。具体的な材木を前にしてイメージを膨らませる。夕方の新幹線で帰京。車中、打ち合わせのおさらいと「ほぼ日」の原稿を進める。

 夜、事務所に戻ってデスクワークのあれこれとメールなどの雑務。阪神が連日の接戦を制して巨人に勝ち、ガンバの宇佐美選手が1アシスト1ゴールで、バイエルン移籍前のJ最終戦で有終の美を飾る。今日の朝方のなでしこジャパンもドイツでスウェーデン代表を破って、決勝進出を決めてもらいたい。

7月12日(火)
 午前中、ぐっすり爆睡。昼、メールなどの雑務。午後、打ち合わせ資料の準備と「凱風館」の内装についてあれこれ考える。夕方、来月人生初めての個展を控えた友人とお茶。作品をたくさん描き上げて頑張っているようだ。展覧会が今から楽しみ。

 本町に行って、行政書士として独立する影浦さんと合流し、新しいオフィスを内覧。家具のレイアウトやデスクのデザインについて話し合う。できることは協力すると約束し、近くのイタリアンバーで乾杯。140Bの大迫さんら内田ファミリーのスピンオフとなって、美味しいもの食べながら盛り上がる。

 深夜、『日本の建築遺産12』(磯崎新、新潮社、2011)を読み始める。

7月11日(月)
 東日本大震災から四ヶ月が経過。この時間をどう受け止めればいいのだろうか。あの日以来この国は確実に変わった。各自が何かしらの変化のきっかけを掴み、少しずつ復興に向けて可能なことをそれぞれがやっていければいいのではないだろうか。しかし、政治の茶番と原発問題には深く落胆している。

 朝一の新幹線で神戸へ。車中、「ほぼ日」の原稿をチェック。「凱風館」の現場にてあれこれ打ち合わせ。みっちり6時間、細かい未決定ポイントについて、壁の納まり、天井や窓枠について話し合う。換気塔やロフトのニッチも完成し、天井の杉材も綺麗に進んでいる。道場の玄関脇の壁に仕込んだガラスの小口使いもうまくできている。

 夜、奈良の実家に帰る。日頃の疲れを取るために風呂に入ってすぐに寝る。熱さも本格化し、夏バテしないように体力を整えたい。

7月10日(日)
 朝方、暑さのため目が覚めるも、テレビでなでしこジャパン対ドイツのサッカーが放映されていて見入る。延長後半の決勝ゴールに興奮する。WCベスト4を見届けて、二度寝。午前中、メールなどの雑務。昼、練馬へ。JIAのセミナーのための質問事項を整理し、準備をする。

 午後、山本浩二画伯と内田先生と合流し、練馬美術館『磯江毅/マドリード・リアリズムの異才』展オープニングへ。本や作品集では観てきたが、実作を観るのは初めて。70年代から最晩年の作品までがクロニクルに展示されていた。「新聞紙の上の裸婦」と「深い眠り」は息をのむ。作品が放つ異様なまでの存在感は多くの視点を取り込み、複雑なパースを見事に捉えている。だから画面をどこから観ても信じられないような立体感でもって観る者に迫ってくる。「マロニエ」や「葡萄」もまた印象に残る。

 夕方、JIA会館へ。年間セミナーの第一回。内田樹先生と『街場の建築論』と題してお話する。311を経て日本人はみな病んでいる、ということから始まり、霊的なものなど数値化できないものを感知するセンサーの精度について展開する。相互扶助的共同体の作り方においてはその社会の「大きさ」という問題の大切さについて話を伺い、話題は首都機能の分散へと向かう。スクラップ&ビルドの日本社会を時間の強度に耐える都市に変えていくためには建築家が自身の感知能力の精度を上げて、物語を紡ぎ出し、建築に愛着を持ってもらえるようにしないといけないのではないだろうか。単一な価値に基づいたデザインのディズニーランドではなく、異物をも取り込む多様なアルハンブラ宮殿こそが時間と付き合うための手がかりにならないだろうか。「町づくり」という言葉のもつ限界について。

 続けて内田先生に「入れ歯」の話をしてもらい、「凱風館」のプレゼンテーションに移る。パブリック/セミパブリック/プライベートな空間をもつこと、自我のメタファーとしての建築、屋根の多様性(断片の集合体)をスケッチと図面、模型写真で説明した後に、具体的な凱風館にまつわる京都美山町の物語(小林直人さん)、左官/土の物語(井上さん)、「老松」の物語(山本画伯)、淡路島の瓦の物語(山田脩二さん)について紹介し、それが「みんなの家」としてそれぞれの夢が積層しながら「凱風館」をつくっているという締め。僕自身もこの「みんな」の一人であるということを述べると、すかさず先生から「光嶋くんが我々の共同体の中で一番年下で、非力なのでサポートしたい。ぜひ頑張ってもらって、大物になってもらいたい」という言葉を受ける。何事もフロントラインに出る必要はなく、二次的、三次的にもサポート体制がつくれるという話へ発展。秩序があって初めて多様な共同体は形成される。その後会場からの質疑応答を経て、内田先生からも中島工務店の建築における「マイナス1な感じ」から住まい手が手を加えることで完成する建築のあり方について締めの言葉を頂く。

 その後、懇親会。年間セミナーの企画者であるワークステーション主宰の高橋夫妻の挨拶などがあり、セミナーのキックオフを祝う。たくさんの方々と挨拶し、意見交換。前もって打ち合わせなしでの対談だったので、予定調和なところが一切なく、ライブ感はしっかり伝わったのではないだろうか。その後山本画伯夫妻とアルテスの鈴木さん、新潮社の足立女史らと食事。本当に幸福な気分で大いに盛り上がる。

 深夜、興奮覚めやらず『六ヶ所村ラプソティー』(監督:鎌仲ひとみ、2006)のDVDを観る。こちらは、とにかく人間の命よりも経済原理ばかり優先する政治にすっかり情けなくなるのを通り越して落胆してしまう。いやはや。

7月9日(土)
 朝からぐったりする真夏日。午前中、メールなどの雑務と明日のセミナーのスライド準備を進める。

 昼、トロントで一緒に過ごした中学時代の友人宅でランチ。9人中7人が結婚し、われわれのグループも16人になった。キッズも4人。20年来の友人だが、みな変わらず元気そうで何より刺激になる。

 夕方、新宿で打ち合わせを一本済ませ、ビックカメラで買い物をして帰宅。夜な夜なセミナー資料の準備をして、まとめ切る。深夜、目黒川沿いをランニング。ゆっくり走りすぎるのも疲れてしまう。内田先生の本をいくつか拾い読みしながら質問をあれこれ考える。

7月8日(金)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。昼、目黒で働く友人に事務所を案内してもらい、ランチミーティング。千葉で海の前に膨大な土地を手に入れて、そこでの展開について意見交換。

 午後、「凱風館」の展開図をチェックしながら、和室や本棚のデザインをエスキース。来週の打ち合わせの資料の準備も進める。1/30模型も進める。

 夜、ベルリンより一時帰国中の友人たちが来所。ダンサーの友人はドイツ人のフィアンセを紹介してくれ、研究者の友人はいつになく守備範囲の広い知的な会話に目から鱗。二人とも3年ぶりくらいの再会で、事務所での仕事を案内した後は、駅前で食事。ビールを飲みながら近況報告に盛り上がる。

7月7日(木)
 七夕。午前中、メールなどの雑務と電話対応。昼から日大船橋校へ。ベーシック建築デザインの授業。二点透視図法を勉強したので、校舎内の建物をスケッチするという課題。みなそれぞれに面白い視点で場所をみつけて、一生懸命描いていた。
3コマ目は、早速後期の創作課題についての説明。いよいよ設計製図といった様相。頑張ってもらいたい。

 夜、ノルウェー人の友人がフランスの大学にてMBAを勉強しにいくのでグッバイパーティー。久しぶりに会ってあれこれ盛り上がる。

 深夜、デスクワークと週末のあれこれの調整など。チャリティーイベントの展示デザインについてスケッチを進める。

7月6日(水)
 午前中、メールなど雑務。界工作舎OBの岩元夫妻と造園家の野口くんが来所。「凱風館」の外構についての相談。模型や図面を見ながらコンセプトを説明。

 午後、アルテスの鈴木さんと合流し、神宮前の「ほぼ日イトイ新聞」事務所へ。「ほぼ日」のみなさんと連載についてあれこれ打ち合わせ。廣瀬さんがページのデザインもつくっていただいた。もうすぐスタート。しっかり準備していいものにしたい。わくわくする。

 夕方、「凱風館」の展開図をチェックし、本棚のスケッチを進める。F歯科医院のエスキース。夜、「ほぼ日」の原稿に画像データを整理して組み込んでいく。深夜、目黒川沿いをランニング。

7月5日(火)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。午後、「凱風館」の図面修正を進める。月末に招待されたドイツでのシンポジウムのレクチャーについてあれこれ考える。3週間後には出発か。

 夕方、F歯科医院にエスキースを進める。夜、久しぶりに青空空間オーナー会ってわいわい飲む。深夜、日曜日のJIAのセミナーの予習も含めて『日本辺境論』(内田樹、新潮新書、2009)を再読する。

7月4日(月)
 朝、すっきりした目覚め。掃除と洗濯。午前中、メールなどの雑務。昼、「凱風館」の展開図を再度細かくチェックしていく。微調整を進めて、外構についてもあれこれ考える。いよいよJIAのセミナーまで一週間を切ったので、プレゼンテーション資料の準備に取りかかる。

 深夜、デスクワークを進めて、いくつかの本を雑読。あっという間に一日が終わった印象。突然の豪雨でランニングは断念。

7月3日(日)
 結局それぞれの本の再読も含めて、寝ないで読書会のレジメをまとめる。昼、難波先生の界工作舎へ。第7回LAT's読書会。ギブソンの『生態学的視覚論』とユクスキュルの『生物から見た世界』について担当者として発表する。人間が環境をどのように知覚するかについて。頭の中に概念があるからこそ知覚していけるというカント主義に対して、ユクスキュルは生物(人間)自身の中にそれぞれのフィルターがあり、知覚するからこそ概念が生まれるという逆の発想。環境がアフォードしてくれるものをいかようにして汲み取るかを考えていくと、近代建築が社会のマジョリティーを前提にしていることに気がつく。その前提を考え直すことで、新しい豊かさの発見ができないだろうか。つまり、みんなに通じるインターナショナルな空間でなく、個別な価値観に対する個別な建築の可能性。時間や空間という概念も加えると、変数の多い複雑な人間はダニなどの単純な生物に比べて確実性が少なく、多様になるのでアフォーダンスを理論化することは難しいようだ。豊かさの定義も一筋縄にはいかない。

 久しぶりのロータスでLAT'sの打ち上げをし、これまた久しぶりのシネマライズで映画『奇跡』(監督:是枝裕和、2011)を観る。まえだまえだの自然体の関西弁演技は圧巻。日常の中のささやかな奇跡を求める子どもたちの話し。イノセントな子どもたちを通して、家族、友情、死、といったテーマを含めて作品に仕立て上げている。クライマックスの映像はさすが。是枝監督の初期の作品には突き放されたようなドライな感じがあったが『歩いても歩いても』以降の作品には人間への接近がみられる。

 なんと鑑賞後に是枝監督が登壇し、トークイベント。全く知らなかったので嬉しいサプライズ。本人と話せるせっかくの機会なので「是枝作品にはいつも「子どものイノセンス」と「死」が根底にあるが、どのような関係性と意図をもっているのか?」と質問したら900人の中からオーディションしていることや、台本を渡さないでその場で口で演出していることを言った上で「強い子どもでなく無垢な子どもたちがそれぞれに成長していく姿、また死を乗り越えていく姿に関心がある」と答えて頂いた。半時間ほどの質疑応答に丁寧に答える監督の知性に「作り手」としてのプライドを感じた。

 帰宅して、ベットに倒れ込み、爆睡。

7月2日(土)
 午前中、メールなどの雑務と電話対応。昼、国連大学前のファーマーズマーケットに行って黒崎さんと近況報告。あれこれと新しい展開を伺い、可能な範囲で協力したい。

 その後、ワタリウム美術館にて『驚くべき学びの世界展』を観る。子どもたちの自由な発想から生まれる想像力がもつ創造力に驚く。あれだけのコンテンツと流れるようにまとめあげた会場構成は平田晃久さん。館長の和多利さんとオンサンデーズのカフェで歓談。学生時代からお世話になっているのであれこれと盛り上がる。

 夕方、事務所に戻って『生態学的視覚論』と『生物から見た世界』の再読を続ける。気分転換に『借り暮らしのアリエッティ』(監督:米林宏昌、2010)のDVDを見る。原作の『床下の小人たち』をアニメーションにしたものらしいが、物語としての深みに欠けてすごくあっさりした感覚。小人になったことでスケール感の変化はやはり面白かったが、それ以外はあまり琴線に触れなかった。

 深夜もずっと読書を進める。レジメを書きながら、再読を続ける。

7月1日(金)
 2011年後半戦がスタート。午前中、メールなどの雑務と電話対応。F歯科医院のエスキースを進める。今月中のプレゼンを目指す。昼、出張の打ち合わせ資料を整理して議事録を作成し、送信。細かい修正作業。

 午後、目黒で打ち合わせ一本。都市計画に関する発展性のある新しい案件。夕方、「凱風館」の書斎のデザインを再度検討。夜、ギブソンの『生態学的視覚論』を読み進める。

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